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 世界中のシステム開発で「成功」と言われているのは、実は3割ぐらいしかない。2003年と2008年の日経コンピュータ誌の調査でも明確に表れていたし、毎年実施されている米スタンディッシュグループの調査でも同じ結果が出ている。成功しなかった7割の案件は、発注者が「こんなもの頼んだ覚えはない」となり、作り直しになったり、下手すると訴訟になったりする。

 その原因のほとんどは、コミュニケーションギャップである。私は常々「システム開発はコミュニケーションの仕事だ」と言ってきたし、ITを経営の力とすることができるかどうかは経営者がコミュニケーションを大切に考えるかどうかにかかっていると信じている。システム開発の多くがコミュニケーション不足によって期待した結果を得られないことを知っているからである。

 コミュニケーションにおいて、人が相手の話をどう理解するかを思い浮かべてみよう。聞き手の経験や知識、あるいはトラウマなどによって必ずバイアスがかかっていることに注意する必要がある。例えば下図のように、話した人は「AとB」と伝えたつもりなのに、聞いた人は「BとC」と受け取ってしまうというのはよくあることだ。これがシステム開発の要件だとしたら、意図したものと全く違うものができてしまうことは明らかだろう。

コミュニケーションギャップの例
コミュニケーションギャップの例
話した人は「AとB」と伝えたつもりなのに、聞いた人は「BとC」と受け取ってしまう
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 コミュニケーションギャップを埋めるには、丹念に対話を繰り返して両者の思いの違いや、理解の違いを1つずつ正していくしかない。これは口で言うほどたやすくない。ましてや「ITのことはよく分からないから、任せるわ」という丸投げ経営者と愚痴ばかりのIT部長の間で、この対話が全うに行われることはないだろう。

 ITの生かし方の巧拙が経営を大きく左右するようになってきたのは1990年代後半からである。一部の人のものだったPCやインターネットが、すべての人の手元に置かれるという新たな社会インフラが構築されたことによって、企業のIT活用はそれまでとはレベルの違うものとなった。