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 前回、「ITを経営の力として生かすためには『何年先にはこうなりたい』というビジョンを描き、個別最適の仕事のやり方のままではビジョンが実現できないと気づくことが出発点だ」と書いた。「その上で各担当の仕事を見える化し、ITを活用すればこれだけ生産性の高いプロセスになるというデッサンをする。そこまでして初めてITベンダーと対話すべきである」とも記した。

 私は今、ITコーディネータ(ITC)と一緒に熊本県の中小企業を支援している。これは、まさしく上記のプロセスをたどる支援の仕方を肌感覚でつかみ、中小企業向けのガイドをつくっていきたいと思うからである。そこから学んだものは実に大きく様々である。

 その会社は熊本県の運送業H社である。売り上げ8億円、従業員96人で、社長と夫人の専務との2人3脚で経営してきた。1人のドライバーがトラックで荷物を運ぶルート配送などとは異なり、複数の社員がチームを組んで、半導体の製造機器やピアノなど重たく精密な物品を運び、設置作業までを担う。このユニークなビジネスモデルで10%を超える高い収益性を誇っている。

 ここから先はITCと社長夫妻との会話形式で、この1年間の歩みを振り返ってみよう(煩雑さを避けるために、社長と専務のコメントは「社長夫妻」のコメントとしてひとくくりにした)。

ITC:10年先にどういう会社になりたいですか
社長夫妻:10年先ですか……そこまでは考えていなかったな
ITC:「戦略マップ」などで整理しながら、10年後をイメージしてみましょう
社長夫妻:実は今、福岡に倉庫を新たに建てようとしているんです。それが完成したら、倉庫から運送まで一貫した仕事ができる「総合物流会社」を目指したいな
ITC:今の仕事のやり方の延長線上で行けそうですか

 これがキラークエスチョンだった。そこから社長夫妻の問題意識が噴き出してきた。

社長夫妻:今、社内には7つの部門があるんですが、それぞれ違うやり方で受注したり、配車したりしています。どこか重複している気がするし、もっと良い仕事のやり方があるのではといつも思っているんです
ITC:社長や専務はそれぞれの部門がどういう仕事のやり方をしているか、細部までご存知ないですよね
社長夫妻:そうなんです。是非知りたいと思っているのですが、なかなかうまく聞き出せなくて
ITC:それでは部門ごとにキーとなる人にインタビューさせてください。それを基に業務フローを書いてみますから
社長夫妻:是非お願いします。中重量部門の配車を一手に担っているT課長から始めてもらうのがよいと思います。”