日本の中小企業の7~8割は受発注をファクスでやり取りしている――。
経済産業省が帝国データバンクに委託した「経営診断ツールの認知・活用状況及び、決済・資金調達の実態に関する調査」の調査報告書(2019年2月公開)を基にした数字だが、これをどう思われただろうか。「ファクスは便利だから、さもありなん」だろうか。もしそうだとしたら、「会社全体の業務プロセスを考える」という視点からは残念な感想である。
ファクスは確かに便利な道具である。電話だけでやり取りすることに比べれば、証跡も残るし、より間違いのない受発注処理ができる。しかしながら、ファクスは紙に記して情報を送り、紙の形で受け取る仕組みだから、送信して受け取ったらそこで終わりだ。システム的に次のアクションにつながることはない。
例えば、部品製造会社が販売管理システムを導入して受発注を管理しようとしても、注文をファクスで受けると、販売管理システムにファクスを見ながら手作業で入力する必要がある。部品を納品する際も、発注元に納品データを受け取る仕組みがなければ、納品伝票はファクスで送るか、納品物に同封することになるだろう。発注元の社内でも同様に手作業が発生する。以降、請求処理に至るまでファクスまたは郵送でのやり取りが続く。
このように日本の中小企業の8割は毎日、何十枚、何百枚のファクスをやり取りしたり、伝票や請求書を郵送したりしながら、受発注から請求に至るまでを処理しているのだ。
その結果、月締めの会計処理の際には、1カ月分のファクスや紙の書類をひっくり返しながら入金を確認し、売掛金の消し込み作業を行っている。その作業はとても非効率で、時間ばかりかかる生産性の低い仕事であることは容易に想像がつくだろう。2017年3月の中小企業庁の調査では、4割の中小企業が売掛金の入金確認作業に10時間以上を費やしているとされる。
このような話をすると、「どうして受発注データをメールに添付して送らないのか」と聞かれることが多い。メールでやり取りすれば、紙を介在するファクスの煩わしさはなくなるのではないかという趣旨である。冒頭で紹介した調査でも、メールを利用している割合は多い。