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 米国でITに関わる人であれば誰でも知っている金言がある。それは「Don’t pave the cow path」というフレーズだ。日本語でニュアンスが伝わるように訳せば「牛の歩いたぐちゃぐちゃの道をそのまま舗装しても仕方がない」といったところだろう。

 せっかくお金をかけてIT化するのであれば、少なくとも10年先を見通した道路計画を作り、あるべき道路を設計したうえで、舗装すべきだと言っているわけだ。しかし残念ながら日本では、ぐちゃぐちゃの道を舗装しただけの「牛の道」システムが世にはびこっている。なぜそうなってしまうのかと言うと、経営者が社内の「仕事のやり方」に本気で関わろうとしないからだ。

 商品の売り上げ、あるいは新商品の開発に関心がない経営者はいないだろう。しかし驚くほど、商品を作り出す仕事のやり方、あるいは商品を顧客に届けるための仕事の進め方、つまりプロセスには関心が向かない。

 これは行政にも当てはまる。失礼かもしれないが「人のふり見て我がふり直せ」の観点から、行政から学べるところは大きい。今、菅義偉内閣は日本のデジタル化の遅れを懸念し、政府の業務プロセスのデジタル化に真剣に取り組もうとしている。ぜひ力強く進めていただきたい。ただ、うまくいくかどうかは、やはりトップの関心がプロセスにまで及ぶかどうかにかかっていると思う。

 実は以前から、日本政府は行政のデジタル化の重要性を認識していた。1994年に閣議決定された行政情報化推進基本計画を嚆矢(こうし)に、2000年に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法を制定した。2001年にはe-Japan戦略を、2002年には行政手続オンライン化法も制定している。

 2013年からは内閣情報通信政策監(政府CIO)を設置し、そのリードの下で業務改革を前提とした行政サービス改革を進めようとしてきた。政府CIOが出したサービス設計12か条には、まさしく「牛の道」の愚を踏まないようにとの趣旨を明確に記している。

 それでも日本の行政のデジタル化が世界に後れを取ったのは、やはりトップの目が、政策の立法化などの先にある、実際に行政サービスを国民に届けるプロセスにまで向いていないからではないか。その結果、行政官においても「政策を立案し、法案として国会にかける仕事」の優先順位は極めて高いが、政策をサービスプロセスに落とし込むところは弱い。特にキャリア行政官がコミットする領域にはなっていないように思われる。