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 システム障害のうち、コンピューターキャパシティーの不足に起因するシステム障害ほど厄介なものはない。今回はそれに関する話を書きたい。

 1977年に東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に入社して、全く想像もしなかったシステム部に配属になり、最初の10年間はシステム運用の仕事をこなしていた。ITベンダーのSEたちとコンピューターを導入したり、OSをセットアップしたりしていた。自分たちを「床下組」と称し、縁の下の働き手であることを楽しんでいた。

 その時、IBMのホストコンピューターを動かしていたMVS(Multiple Virtual Storage)というOSと日々格闘しながら、その設計思想の深さに感銘を受けた。まだまだ高価であったメモリーを有効に活用するために生まれた「仮想(Virtual)空間」という考え方がすごいと思った。

 多くのプログラムで少ない実メモリーを取っ替え引っ替え使うために、プログラムは一旦、仮想空間上にマッピングされ、そこで他のプログラムとのやり取りや入出力の処理が論理的に組み立てられる。本当に作動する一瞬だけ、必要な部分が実メモリーに移されるのだ。

 私は大学で政治哲学を学んでいたので、MVSの考え方に一つの「哲学」を感じ、システム屋人生に深入りするきっかけとなった。

 当時、気合を入れて取り組んでいたことの1つに、キャパシティープランニングがある。まだコンピューターは高価であり、かなりきめ細かくコンピューターの負荷を測定し、今後の伸びを予測してコンピューターの増強を計画する必要があった。

 損害保険商品ごとの契約件数とそのピーク性向を予測するとともに、商品ごと、システム機能ごとにプログラムのCPU負荷(軽いものと重いものでは10倍違う)も測定して、年間の最大ピーク時(損保会社だと12月末と3月末)のコンピューターキャパシティーを予測する。床下組にとっては、会社全体の動きがよく分かり、やりがいを感じる仕事だった。

 実はそれから20年近くがたった頃、部長としてキャパシティー管理不足による痛恨のシステム障害に見舞われるのだが、当時は想像もしなかった。

NRIに共同委託したシステムで大障害が発生

 e-JIBAIという日本の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の処理を一手に担っているシステムで、そのトラブルは発生した。自賠責保険は交通事故による被害者救済を目的とし、原付バイクを含む全ての車の所有者に加入が義務付けられている。政府(国土交通省)が最終的な引き受け責任を持つが、日常の保険の引き受け、保険金の支払いなどの実務は全て民間の損害保険会社に委託されている。

 ちなみに、政府事業の運営形態として自賠責保険は1つの理想的な形ではないか、と私は思う。最終的な引け受け責任は政府が担うものの、私企業の経済合理性の中で運営されることによって最大限効率化が図れる。保険金の支払いにおいても、損保会社の自動車保険との合算処理がスムーズに実施できるなど、契約者メリットは大きい。