全3162文字
PR

 2020年5月15日、半導体ファウンドリー(受託生産)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が約120億米ドル(約1兆3000億円)を投資して米国アリゾナ州に5nmプロセスの工場を設立すると発表した。2021年に着工、2024年に量産という計画である。5月18日付の日本経済新聞電子版によると、TSMCは中国・華為技術(ファーウェイ)からの新規受注を止めたという。15日に米国政府が発表した、ファーウェイへの追加規制によるものとみられる。

 この追加規制では、米国の装置やソフトウエアを使って製造した半導体をファーウェイに供給する場合、外国企業でも米国政府の承認が必要だという。ただし、メモリー半導体のような汎用品は承認が不要なので、メモリーが中心のサムスン電子(Samsung Electronics)とSKハイニックス(SK hynix)に今のところ大きな打撃はないとみられる。しかし、「TSMCがファーウェイからの新規受注を止めた結果として、アップル(Apple)やクアルコム(Qualcomm)といった米国企業の発注を韓国勢から奪う」「米国がメモリー半導体も規制対象にする」「サムスン電子とSKハイニックスがファーウェイから受注できなくなる」といったことも想定して今後の戦略を立てないといけなくなった。

ファーウェイがダメならOPPOやvivoと取引すればよい?

 韓国のメディアや証券業界では、「TSMCが新設する米国工場は、2018年に稼働開始した南京工場と同じく政治的中立性を装うための投資にすぎず、市場に大きな変化はない」という見方もあれば、「TSMCの米国工場新設は米国政府の圧力によるものなので、サムスン電子にも圧力があったはず。追加規制によるファーウェイの苦戦は、一時的にサムスン電子の5G(第5世代移動通信システム)基地局やスマートフォンのシェア増加につながるかもしれないが、メモリーも規制対象になれば業績への影響は避けられない」と米中貿易摩擦の板挟みを懸念する見方もあった。

 サムスン電子がシステム半導体での世界1位奪取に向けて強化しているファウンドリー事業の最大のライバルはTSMCである。加えて、サムスン電子にとってファーウェイは5G基地局とスマートフォンのライバルである。サムスン電子に前向きな見解としては、「TSMCがファーウェイとの取引を止めている間にサムスン電子が5nmプロセスのファウンドリーで受注を増やし、イメージセンサーのシェアも増やせれば、システム半導体で世界1位という目標に近づける」との分析もあった。韓国半導体協会は「(米国の)ファーウェイ制裁が本格化すれば、OPPO(オッポ)やvivo(ビボ)といった他の中国企業と取引すればよい。短期的には影響を受けるかもしれないが長期的には相殺される」と分析した。

 TSMCが米国工場新設を発表した直後の20年5月17日、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は新型コロナウイルス感染症拡散後としては初めて2泊3日の中国出張に出かけた。李副会長の出張には、5月から韓国と中国の間で適用された企業人入国手続き簡素化制度によって14日間の自宅隔離が免除された。出国時、相手国入国時、帰国時の計3回の検査で陰性であれば、すぐ業務にとりかかれる。

 今回の李副会長の出張は、中国陝西省西安市にあるNAND型フラッシュメモリー工場の訪問が目的だ。そのうち西安第2工場は、17年から累計150億米ドル(約1兆6200億円)規模の投資が行われており、20年4月から5月にかけて同工場増設のために韓国の技術者500人がチャーター便で現地入りした。李副会長は西安工場の社員に「成長の原動力を作るためには迫りくる巨大な変化に先制して備えないといけない」「タイミングを逃してはならない」と強調したそうだ。5月6日に実施した国民への謝罪で李副会長が述べた、新しいサムスンを作るという話にもつながる。

関連記事:不正会計疑惑で窮地のサムスン、半導体受託で「TSMC超え」に本腰

 この出張はもともと予定されていたものだったが、TSMCの米国工場新設発表によって微妙な位置付けになってしまった。サムスン電子の西安第2工場は、2019年10月に中国の李克強(リー・クォーチャン)首相も訪問した場所である。当時、韓国メディアは李首相が「米国ではなく中国と半導体分野で協力しよう」というメッセージを送るためにサムスン電子の半導体工場を視察したのではないかと解説した。サムスン電子が「中国寄り」とみられないためには、米国にも追加で投資して中立性をアピールする必要がありそうだ。