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 韓国の水原地方検察庁産業技術犯罪捜査部は2020年8月7日、韓国Samsung Display(サムスンディスプレー)の研究員2人とディスプレー設備メーカー代表1人の計3人について、「産業技術の流出防止および保護に関する法律」「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律」などへの違反容疑で身柄を拘束し起訴したことを発表した。韓国では、中国をはじめとする国外への技術流出に厳罰を求める声が高まっている。

(出所:Sqback / PIXTA)
(出所:Sqback / PIXTA)

中国に技術が渡る前に押収

 水原地方検察庁によると、Samsung Displayの研究員AとBは、19年11月から20年5月にかけて、同社の有機EL(OLED)製造に用いる透明樹脂(OCR)のインクジェット印刷工程の仕様をディスプレー設備メーカーX社の代表Cに教え、主要な設備を造らせた。同工程は、Samsung Displayが3年間で100億ウォン(約8億9300万円)以上を投資して開発した世界初のものである。

 さらに、AとBは19年11月、同社のOLED製造用LTPS(低温ポリシリコン)結晶化設備の光学系図面を不正に使用し、同設備の核心部品を製作するとともに、20年4月にCにこの図面を提供したという。AとBは、X社の株式を借名で取得していた。

 A、B、CはSamsung Displayの技術を持ち出してX社で設備を造り、中国に売ろうとしていた。だが、試作品を造ったところで全て押収となり、中国には技術が流出しなかったもようだ。

 Samsung DisplayのOCRインクジェット印刷工程は、液状のOCRを射出・塗布することでディスプレーパネルとカバーガラスを接合するというもの。同社は20年10月からOLEDディスプレーの後工程ラインにこの技術を本格導入する計画だった。

 同社は同年2月ごろから、ディスプレーパネルとカバーガラスの接着手段を、これまでの透明テープ(OCA)からOCRに切り替えるための設備投資をしていた。証券業界では、同社のOCA購入費は年間2000億ウォン(約179億円)を超える規模であり、OCRへの切り替えによって大幅にコストを削減できるとともに、フォルダブル(折り曲げ可能な)OLEDディスプレーの生産を伸ばせるとみていた。

 本件を巡っては、20年4月に韓国の国家情報院産業機密保護センターが情報を入手し、水原地方検察庁に事件を配当。両機関が協力して捜査を進めた。水原地方検察庁は捜査過程を公開し、「素早い捜査と捜索、押収によってSamsung Displayの技術が中国に流出するのを防いだ」との談話を発表した。

 同社の技術が狙われたのは、今回が初めてではない。18年にも水原地方検察庁は同社のフレキシブルOLEDディスプレーの後工程ラインに使われる3次元ラミネート関連設備の仕様書やディスプレー図面などの産業技術、および営業秘密の流出を巡り、同社の協力会社であるToptec(トップテック)の役員と社員計11人を起訴した。この事件では、前述の技術や営業秘密を使って設備を製造し、疑いの目を向けられないように設立した別会社を通じて中国企業に売り渡していたという。対象となった技術は、Samsung Displayが1500億ウォン(約134億円)を投資した核心技術だった。Toptecは容疑を否認し続けている。1審判決は20年8月末の予定である。