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 2020年9月22日に米Tesla(テスラ)が開催した電池事業の説明会「Battery Day」の発表内容は、電池メーカー各社に衝撃を与えた。これまで、電池メーカーにとってのテスラは、電気自動車(EV)で電池の市場を拡大してくれる存在だった。ところが一転、テスラが電池内製化の方針を打ち出したことで、電池メーカーはシェアや主導権を失うリスクが浮上した。

 テスラの主な発表内容は、以下の通りである。

  • 電池の生産能力を、22年中に100GWh/年、30年までに3TWh/年に高める
  • EV用電池パックの単位容量当たりのコスト(米ドル/kWh)を56%下げる
  • コスト削減した電池を使って価格を2万5000米ドル(約264万円)に抑えた新型EVを23年までに発売する(同社のEVで最も安価な「Model 3」よりも1万米ドル以上安い)
  • EVの生産能力を、30年までに2000万台/年に高める(20年の出荷目標は50万台)

 テスラ最高経営責任者(CEO)のElon Musk(イーロン・マスク)氏は、電池を内製化できるまではパナソニックや韓国LG Chem(LG化学)、中国・寧徳時代新能源科技(CATL)からの調達を増やすと語るが、生産能力の強化は着々と進んでいる。複数の欧州メディアの報道によると、テスラは、ドイツのBMWやDaimler(ダイムラー)との取引実績がある同国の生産エンジニアリング会社Assembly & Test Europe(ATW)を買収することで合意したという。

 Battery Dayの開催前は、全固体電池や、エネルギー密度が500Wh/kgを超えるような電池など画期的な技術に関する発表が期待されていた。だが、テスラが実際に公開したのは「4680」と呼ぶリチウムイオン電池セルだった。直径46mm×長さ80mmと、既存の電池セル「18650」(同18mm×65mm)や「2170」(同21mm×70mm)よりも大きなこの円筒形セルを使うことで、14%のコスト低減効果が見込めるという。

Teslaが「Battery Day」で発表したリチウムイオン電池セル「4680」(出所:Tesla)
Teslaが「Battery Day」で発表したリチウムイオン電池セル「4680」(出所:Tesla)
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LG化学に打撃

 度肝を抜くような発表こそなかったものの、韓国ではテスラの発表がEV用電池で世界市場シェア1位(20年1~8月、容量ベース、韓国SNE Researchの調査)のLG化学にとって打撃になったとみている。EV市場の拡大は電池メーカーにとってもチャンスだが、テスラが内製化を進めれば電池メーカーが主導権を奪われるからだ。

 テスラは20年10月1日、中国で生産するModel 3の価格を、従来の27万1550人民元(約422万円、中国政府の補助金を受けた額)から24万9900人民元(約389万円、同)に下げると発表した。米Bloomberg(ブルームバーグ)の報道によると、値下げしたモデルでは、新たにCATLのリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP正極)を採用したという。正極にコバルトを含まないのが特徴である。コバルトは埋蔵量や児童労働といった問題が指摘されており、各社はコバルトフリー化の技術開発に取り組んでいる。これまでのモデルでは、パナソニックのニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウムイオン電池(NCA正極)や、LG化学のニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムイオン電池(NMC正極)を採用していた。テスラとCATLの関係が密接になっていることも、CATLとシェアを争うLG化学にとっては脅威である。

LG Chemのリチウムイオン電池「21700」(出所:LG Chem)
LG Chemのリチウムイオン電池「21700」(出所:LG Chem)
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 LG化学は、正極におけるニッケル比率を90%に増やしてコバルト比率を5%以下に抑えたニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム酸リチウムイオン電池(NCMA正極)に力を注いでおり、米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)が21年に発売する新型EVピックアップトラックに同電池を供給するための量産準備を始めた。当初は22年までに同電池の開発を完了し、GMに供給する予定だったが、GMの計画が前倒しになったことでLG化学も量産を急いでいる。

 両社は19年12月、同電池の生産に向けた合弁会社の米Ultium Cells(アルティウム・セルズ)の設立を発表していた。出資比率は、50対50である。現在、2兆7000億ウォン(約2460億円)を投資し、30GWhの年間生産能力を持つ工場を建設中である。21年発売予定の新型EVピックアップトラックには、まずLG化学の工場で生産した電池を供給し、その後は合弁会社の工場で量産した電池を供給する計画である。

 この他、LG化学は20年6月、韓国Hyundai Motor(現代自動車)とEV用電池を生産する合弁会社をインドネシアに設立することを検討しているとも報じられた。