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 韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション、LGES)と韓国SK on(韓国SK Innovationから分社)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国バッテリー3社が米国内の生産拠点拡大を加速している。バイデン米大統領は2021年8月、30年までに米国で販売する乗用車と小型トラックの50%以上を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を盛り込んだ大統領令を発令した。米国で生産したバッテリーセルを搭載したEVは追加控除が認められる見込みであり、韓国バッテリー3社は今こそが北米に生産拠点を拡大するチャンスとみる。欧米の自動車大手と相次ぎバッテリー生産のための合弁会社設立に動く中、韓国内ではバッテリー生産の原材料を中国に依存するリスクがささやかれている。

LGエナジーソリューションは米GMに加えて欧州ステランティスともバッテリー生産のための合弁会社を設立する
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LGエナジーソリューションは米GMに加えて欧州ステランティスともバッテリー生産のための合弁会社を設立する
(出所:Stellantis)

LGはGM、ステランティスと合弁、25年に年150GWhの生産能力

 EV向けバッテリーで韓国最大手のLGエナジーソリューションは、米国におけるバッテリー生産拠点を順調に拡大している。同社は既に韓国の現代自動車(Hundai Motor)や米GMなどから多くのEV向けバッテリーを受注している。22年1月には新規株式公開(IPO)を計画し、IPOで調達した資金を生産設備に投資する。

 GMと韓国LG Chem(LG化学)の共同出資で設立した「Ultium Cells LLC」は、米オハイオ州と米テネシー州にそれぞれ年間35GWhのバッテリー工場を建設。24年に年間70GWhのバッテリー生産能力を確保する計画だ。LGエナジーソリューションは、GMとの間に起きたリコール問題も乗り越えた形で、両社は良好な関係を保っている。

 実際、バイデン米大統領が21年11月17日(米国時間)、米ミシガン州にあるGMのEV工場「Factory ZERO」を訪問した際のエピソードにもそれがうかがえる。バイデン氏は、Ultium Cells LLCが生産した200kWhのハイニッケルバッテリー「NCMA(ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム)」を搭載したEVピックアップトラック「Hummer」に試乗。急発進するなどして記者らの前で「いい車だ」と絶賛した。NCMAバッテリーは、ロングセルでバッテリーパック内部のセル配列を既存の3段から2段に単純化したのが特徴だ。構造の単純化で物理的容量が増えエネルギー密度を10%以上向上したという。

 LGエナジーソリューションは21年10月、欧州の自動車メーカーであるStellantis(ステランティス、旧FCA) とも合弁会社設立に合意。年間40GWh規模のバッテリーセルとモジュールを生産する工場を米国に建設する計画を発表した。22年夏に着工し、24年1~3月期からステランティスが米国やカナダ、メキシコで生産する次世代EVに、このバッテリーを搭載する計画である。

 LGエナジーソリューションは単独でも米ミシガン州にバッテリー工場を追加建設する。そのため同社のバッテリー生産能力は25年に、北米だけで年間150GWh規模のバッテリー生産能力に達する見込みだ。

SKはフォードと合弁、米国で年150GWh規模の生産能力を確保

 韓国バッテリー2番手、SK onも負けてはいない。同社と米Ford Motor(フォード)は21年9月に合弁会社「BlueOvalSK」を設立。27年までに約114億ドル(約1兆2800億円)を投資し、米テネシー州と米ケンタッキー州に年間129 GWh 規模のバッテリー生産工場とEV生産工場を建設する計画を発表した。

 SK onは米ジョージア州に単独投資したバッテリー生産工場を持つ。この工場のバッテリー生産能力が年間21.5GWhであるため、同社は米国内で年間約150GWh規模のバッテリー生産拠点を確保した形になる。SK onは全世界でバッテリー生産能力を23年に85GWh、25年に220GWh、30年に500GWh以上に伸ばす計画を打ち出している。旺盛な米国投資によってこの目標を上回りそうだ。

 SK onは21年12月から、ニッケル含有量を高めたバッテリー「NCM9:1/2:1/2」の量産を開始する。22年上半期出荷するフォードのピックアップトラック「F-150 Lightning」に搭載するという。これまでの同社のバッテリー「NCM8:1:1」バッテリーよりもエネルギー密度を約20%高め、その分走行距離が長くなる。韓国バッテリー3社は、ニッケルの含有量を90%以上にするコバルトフリーに近いバッテリーの開発を競ってきたが、SK onがその口火を切った。

 SK onを含む韓国SKグループは30年まで米国に520億ドル(約6兆円)を投資する計画だ。同社はこれまで、韓国バッテリー3社の中で最も米国におけるバッテリー生産量が多かった。しかしLGエナジーソリューションの追い上げとサムスンSDIの新たな米国投資によって、同社の米国内の立場が揺らぐ懸念がある。そのため追加投資の可能性もありそうだ。