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 ネットワークへの投資は通信事業者だけが負うべきなのか――。韓国では、ネットワークのコスト負担を巡って、米Netflix(ネットフリックス)と通信事業者の間で泥沼の訴訟合戦が繰り広げられている。欧州でも巨大IT企業に対し、通信インフラコストの一部負担を求める声が大きくなってきた。韓国における訴訟の行方と論点を紹介する。

ネットフリックスと韓国SKブロードバンドの泥沼訴訟は世界の注目を集めている
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ネットフリックスと韓国SKブロードバンドの泥沼訴訟は世界の注目を集めている
(出所:Netflix)

ネットワーク使用料を支払う義務を巡りネットフリックスとSKBが訴訟

 ネットフリックスは2020年4月、韓国SK Telecom(SKテレコム)の子会社でインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)である韓国SK Broadband(SKB)を相手に訴訟を起こした。

 ことの経緯はSKBが、ネットフリックスに対して同社のインフラを使うことへの対価となる「ネットワーク使用料」を求めていたことにある。SKBはネットフリックス利用者のトラフィックが急増する中、他の利用者の安定したインターネット環境を守るため、ネットフリックスのサーバーがある東京と香港をつなぐ国際ネットワーク区間容量を増速せざるを得なくなったという。

 これを受けてネットフリックス は、「特定サービスにネットワーク使用料を要求するのは、(すべてのインターネットトラフィックは公平に扱われるべきだとする)ネットワーク中立性原則に反する」とし、交渉に応じたりネットワーク使用料を支払ったりする義務がない点を確認するために訴訟を起こした。21年6月に出たソウル中央地方法裁判所の一審判決は、交渉義務がないことを確認する請求は却下、その他請求は棄却という、ネットフリックスに不利な判決となった。

 ソウル地裁の一審判決の主な内容は以下の通り。(1)ネットワーク中立性は「通信事業者が自社ネットワーク上に流れる合法的なトラフィックを不合理に差別することを禁じる原則」であり、ネットワーク使用料の議論とは直接的関連がない、(2)原告(ネットフリックス)は被告(SKB)を通じてインターネットに接続するという有償役務を提供してもらっていることから、原告は被告に有償役務への対価を負担するものと認定する、(3)どのように対価を支払うかは2社間交渉で決めるべきである――、といった具合だ。

 韓国には大手通信事業者が3社あり、その内、SKテレコム以外の韓国KTと韓国LG U+はネットフリックスと提携関係にある。実はこの2社、ネットフリックスとネットワーク使用料の対価を巡る交渉を終えているもようだ。KTとLG U+は、ネットフリックスとSKBの訴訟についてコメントを控えている。

 韓国のネットサービスの業界団体であるOTT(Over The Top)協議会は、両社の訴訟について「1社でもネットワーク使用料を払わない場合は、その分をコンテンツに余分に投資できるため、全ての会社が公正に払うようにすべきだ」という意見を述べた。韓国の大手インターネット企業である韓国NAVER(ネイバー)と韓国Kakao(カカオ)も、「(ネットフリックスのような)グローバル企業も平等にネットワーク使用料を支払い、公正なインターネットビジネス環境になることを期待する」とコメントした。

 韓国ではかねて、韓国内のコンテンツプロバイダーが通信事業者に対してネットワーク使用料を支払ってきたという経緯がある。