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 韓国Samsung(サムスン)グループや韓国Hyundai Motor(現代自動車)グループなど韓国財閥大手11社は2022年5月末までに、合計で1060兆ウォン(約110兆円)という大規模な投資計画を発表した。韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任し、新政権が発足したことに合わせた「ご祝儀」だ。技術優位を守るための、研究開発や生産拡大の投資が多い。ご祝儀に終わらず、どこまで韓国経済を活性化できるのか。

バイデン米大統領はアジア歴訪の最初の訪問地として、韓国・平沢市にあるサムスン電子の半導体工場を選んだ
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バイデン米大統領はアジア歴訪の最初の訪問地として、韓国・平沢市にあるサムスン電子の半導体工場を選んだ
(出所:Samsung Electronics)

 韓国財閥大手は、新たに大統領が就任するたびに新政府の基調に合わせた投資計画を発表する。進歩派といわれる大統領が就任した場合、中小企業を優先した政策を重視する傾向がある。一方で保守派とされる大統領が誕生した場合、大手企業を優先する政策を重視する。

 2022年5月に就任した尹大統領は保守派といわれる。大手企業が経済成長をリードするとして、企業の税負担を軽くする公約を掲げている。大手財閥はその期待を込めて、大きな投資計画を発表したとみられる。

 韓国の経済団体である大韓商工会議所が2022年5月に公開したアンケート調査によると、韓国企業322社のうち約73%が新政権の経済政策を「期待する」と答えた。期待する理由について、新政権の「企業重視の政策」「規制改革の意思を見せている点」と答えた割合が多かった。新政権の経済政策が成功するためには「未来のための投資、インフラ支援」「規制改革による企業のイノベーション誘導」という意見が目立った。そのため韓国内では、財閥大手の大規模な投資計画は、政府支援への期待を込めた発表という見方が強い。

サムスンは半導体に31兆円投資、米国との関係強化へ

 韓国財閥大手の中でも最も大きな投資計画を発表したのは、サムスングループと韓国SKグループである。

 サムスングループは2022年5月24日、今後5年間で半導体やバイオ、AI(人工知能)と次世代通信に450兆ウォン(約46兆円)を投資すると発表した。今回の投資は「国家核心産業の競争力を1段階アップグレードすると同時に、社会全般に躍動を吹き込むためだ」と説明した。サムスングループの2017年から2021年までの5年間の投資額は、約330兆ウォン(約34兆円)であるため、36%増の投資計画となる。

 450兆ウォンのうち、300兆ウォン(約31兆円)を半導体分野に充てる。世界トップのメモリー半導体の強みを維持しながら、システム半導体とファウンドリーで台湾TSMC(台湾積体電路製造)を追い越し、2030年にメモリー以外も含めた半導体市場で世界トップを目指す。

 新素材や新構造研究開発の強化のほか、高性能・低電力AP(Application Processor)、5Gや6G通信モデムチップ事業に必要なファブレスの競争力も確保する。この他、高画質イメージセンサーの開発や、ファウンドリー分野では3nm世代以下の早期量産に力を入れる。

 サムスングループは米国との協力関係も強化する。2022年5月20日、韓国を訪問したバイデン米大統領は、到着後最初の訪問先として平沢市にあるSamsung Electronics(サムスン電子)の半導体工場を選んだ。バイデン氏は、米国を中心とした半導体供給網の構築に、サムスン電子をはじめ韓国側の協力を求めたとみられる。

 歴代の米大統領は、就任後にアジアを訪問する際、日本を最初の地としていた。韓国の証券業界は、バイデン氏が今回、韓国それもサムスン電子の半導体工場を最初の歴訪地として選んだ理由は、米国にとってサムスン電子の半導体が経済安全保障上、重要であるからだと分析している。

 韓国政府は2022年6月にも、「半導体超強大国」をキャッチフレーズに大々的な半導体産業の支援策を発表すると予告している。韓国メディアは、サムスングループの投資計画は、企業がこれくらい投資するからには、政府も何かしら支援しなくてはならない、という世論づくりが狙いとみている。

 長らく噂されてきたサムスン電子の大型M&A(合併・買収)も、いよいよ具体化するのではないかという報道もある。サムスン電子副会長の李在鎔(イ・ジェヨン)氏は2022年7月、巨大IT企業のCEO(最高経営責任者)や投資家を招待するイベント「Allen & Company Sun Valley Conference」に6年ぶりに参加する。これはM&A発表への布石ではないかといわれている。