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 2022年10月29日夜、韓国ソウル市の繁華街、梨泰院(イテウォン)の狭い路地にて転倒が発生し、若者を中心に150人以上が亡くなるという痛ましい事故が起きた。韓国政府は2022年11月5日までを国家哀悼期間に指定し、全国各地でイベントをキャンセルし犠牲者を追悼した。事故原因の究明や捜査が進む中、韓国のメディア「聯合ニュース」をはじめとした複数のメディアは、国の「災難安全通信網(PS-LTE)」が事故現場の初動対応で十分に活用されなかった点を問題視している。

 災難安全通信網とは、2014年に高校生ら300人以上が犠牲になった旅客船「セウォル号」の沈没事故を受けて、韓国政府が1.5兆ウォン(約1060億円)をかけて構築した公共機関の連絡用無線だ。韓国ではこれまで、警察や海洋警察、消防、自治体など災害に関連する公共機関が異なる方式の無線を利用していた。セウォル号の事故では、公共機関が別々の仕組みを使っていたため情報共有に手間取り、救助が遅れてしまった。その反省を受けて、災害救助に関係する公共機関が同じネットワークを使い、迅速なコミュニケーションを取れるようにした。公共安全用のLTEネットワークである「PS-LTE」技術を使っている。

 韓国の災難安全通信網は2021年5月に、全国規模で構築が完了した。2022年7月には関係する公共機関が災難安全通信網を使った合同訓練を実施したばかりだった。

 梨泰院の転倒事故では、災難安全通信網が初動対応の際に十分機能しなかった。災害救助に関係する公共機関が災難安全通信網経由で通話したのは、事故発生から1時間30分以上も経過した2022年10月29日の午後11時41分だった。この点について災難安全通信網を管轄する韓国・行政安全部災難安全管理本部は2022年11月4日、ネットワークやデバイスは正常作動していたが「訓練が足りなかったのかもしれない」と反省の弁を述べた。そして「今後は、災難安全通信網が十分に活用されるように、現場中心の教育や利用機関の合同訓練を持続的に実施する」と続けた。

2023年に注目するキーワードは「安全」「ネットワーク」

 韓国では梨泰院の転倒事故を受けて、人々の安全を守るような技術が改めて注目を集めている。

「安全」なネットワークとして注目を集める量子暗号通信
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「安全」なネットワークとして注目を集める量子暗号通信
韓国KTは、量子暗号通信の暗号鍵となる量子鍵配送ネットワークと、実際にデータを送るネットワークを1本の光ファイバーで送受信できるようにする技術を開発している(出所:韓国KT)

 例えば、韓国科学技術情報通信部(日本の省に相当する組織)傘下の研究機関である情報通信企画評価院が毎年11月に発表するリポート「ICT Top 10 Issues」の最新版では、2023年のICT分野で注目すべき点として、「安全」と「ネットワーク」が取り上げられた。

 「安全」については、韓国のIT大手Kakao(カカオ)が2022年10 月に無料通話アプリ「KakaoTalk(カカオトーク)」の大規模障害を引き起こしたことが記憶に新しい。同リポートでは、カカオトークのような「デジタル停電」をなくす安全、そして災害からICT技術を使って国民の命を守るという安全、双方について2023年は投資が増えるのではないかと分析した。

 「ネットワーク」については、5G(第5世代移動通信システム)の次の「6G」に向けて、衛星通信を使って海や空でもつながるネットワークの競争が激しくなると指摘した。

 セキュリティーを高めた「量子暗号通信」の実用化に向けたグローバル競争も激化するとした。例えば韓国の最大手通信事業者であるKTは、量子暗号通信の暗号鍵となる量子鍵配送ネットワークと、実際にデータを送るネットワークを、1本の光ファイバーで送受信できるようにする技術を開発している。量子暗号通信は、光の最小単位である光子を暗号鍵の共有に使う。通常は、この暗号鍵を共有するネットワークと、実際のデータを送るネットワークを、別々に用意するケースが多い。これを1本の光ファイバーで実現できると、費用削減や既存の光ネットワークの活用という利点が生まれる。同リポートでは、こうした技術革新によって、韓国における量子暗号通信関連のエコシステムが拡大すると分析している。