楽天モバイルは2020年3月3日、自営回線による第4世代移動通信システム(4G)の商用サービスを2020年4月8日に始めると発表した。併せて発表した料金プラン「Rakuten UN-LIMIT(アンリミット)」が注目を集めている。
具体的には月間通信量の上限をなくした「使い放題」でありながら、月額2980円(当初1年間無料)で契約期間などの縛りもないという料金プランである。「受け付け開始直後から申し込みが殺到し、現在Webサイトにつながりにくくなっている」。楽天モバイルの山田善久社長は同日の記者会見でこう語り、UN-LIMITに対する手応えを示してみせた。
一方でUN-LIMITを巡っては、ネット上で「期待はずれ」「落胆モバイル」などとからかう声も出ている。だが期待はずれと切り捨てるのは早計かもしれない。そこには巧妙な戦略が隠されている。
「格安ユーザーは追わない」選択
同社がこれまで繰り返し強調してきた通り、この料金プランを実現できた要因の1つは独自のネットワーク構成によるものだろう。ネットワーク機能の仮想化(NFV)を全面採用し、ネットワークのコア機能や基地局の制御機能を専用装置でなく安価なPCサーバーで構築している。
さらに「新規参入」も料金引き下げに有利に働いた。NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクの大手3社は4Gだけでなく、2000年代から提供している3Gサービスの設備も維持管理する必要があるが、楽天モバイルはそれらの「重荷」がない分、4Gサービスを展開するうえでの固定費比率を下げやすく、料金を引き下げられた。
ただ、楽天モバイルのUN-LIMITで注目すべきは「月額2980円で使い放題」という「安さ」だけではない。料金プランからは、ブランド維持に向けた極めて巧妙なマーケティング戦略が4点透けて見える。
第1は、料金プランを1通りだけにした点だ。月額2980円というプランは、大手3社の大半の料金プランより安いだけでなく、UQコミュニケーションズの「UQモバイル」やソフトバンクの「ワイモバイル」と「LINEモバイル」、インターネットイニシアティブの「IIJmio」など、いわゆる格安SIMカテゴリーの「上位」プランに対しても競争力がある。
一方で、月間のデータ通信量が1ギガバイトなど少量に収まるユーザーに向けた料金プランを用意しなかった。楽天の三木谷浩史会長兼社長は会見で「(既存の通信会社の料金プランは)いろいろなプランがあって分かりにくい。当社は世界の主要キャリアで唯一、1つの料金プランしか出さない。将来的にも出す予定がない」と言い切った。
シンプルさを追求した結果だと料金プランの狙いを強調した格好だ。だが、「楽天市場」「楽天証券」など楽天経済圏との相乗効果を踏まえ、活発な消費行動が見込める一定以上の層を取り込み、格安ユーザーをあえて追わないというターゲティング戦略といえるだろう。
「使い放題」強調の裏側
第2は「使い放題」の設計そのものだ。UN-LIMITは楽天モバイルの自営回線に接続している場合のみデータ通信を使い放題とする。
一方、自営回線エリア外はau回線に乗り入れる。このローミングエリアでのデータ通信が月2ギガバイトを超えると、128キロビット/秒の低速モードになる。高速に戻すには追加料金を支払う必要がある。
使い放題を巡っては、既にauが4G回線を対象に「auデータMAXプランPro」を投入している。今後、5Gの商用サービスが広がると、各社が使い放題プランをさらに投入してくる可能性が業界関係者の間でささやかれている。
楽天モバイルはauとのローミング契約が従量制となっており、「使い放題を提供しにくいことが弱点になり得る」とされていた。楽天モバイルも当然その指摘を意識したからこそ、自営回線に限定しながらも「使い放題」の看板にこだわり、競争劣後との印象を回避したといえるだろう。