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 楽天の本格参入を受け、日本の携帯電話業界は新たな時代を迎える。これまでは携帯電話料金の競争ばかりに注目が集まっていたが、各社が勝負の分かれ目とみるのは「総合力」だ。携帯電話を中心にEC(電子商取引)やスマホ決済、クレジットカード、ポイントなどの各種サービスを一体で提供し、顧客を自らの経済圏に囲い込もうと模索する。

 今回は楽天が携帯電話業界に殴り込みをかけた格好だが、NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの大手3社は早くから多方面に事業を展開。楽天の得意とするECやクレジットカード、ポイントといった領域に次々と攻め込んでいた。携帯大手3社と楽天の業績を比べると、大きな開きがある。資本力に勝る携帯大手3社の攻勢に楽天は焦りを感じていた。

携帯4社の売上高と営業利益
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは2019年3月期、楽天は2019年12月期
会社名売上高営業利益
NTTドコモ4兆8408億円1兆136億円
KDDI(au)5兆803億円1兆137億円
ソフトバンク3兆7463億円7194億円
楽天1兆2639億円727億円

楽天とドコモ、因縁の関係に

 「今は打倒ドコモしか考えていない」。楽天幹部が対抗心をむき出しにするのがドコモだ。

 楽天がドコモに照準を定める理由は、同社が業界最大手だからだけではない。因縁の相手だからだ。ドコモは過去に自社の経済圏拡大に向けて楽天に触手を伸ばしたが、合意寸前で破談となった過去がある。以降、両社はあらゆる事業でことごとくぶつかるようになる。そして楽天の携帯電話事業参入により、両社の対立関係は決定的となった。

NTTドコモの吉沢和弘社長(左)と楽天の三木谷浩史会長兼社長
NTTドコモの吉沢和弘社長(左)と楽天の三木谷浩史会長兼社長
撮影:村田 和聡(吉沢社長)、写真提供:楽天(三木谷会長兼社長)
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 2016年春、楽天の三木谷浩史会長兼社長はドコモの加藤薰社長(当時)や吉沢和弘副社長(現社長)らと向かい合っていた。提携の方針を確認するためだ。当時、ドコモは「dポイント」を引っ提げ、共通ポイント事業に参入したばかり。ドコモは楽天の営業網を活用して加盟店を開拓したり、両社のポイントを相互に交換したりする構想を描いていたようだ。

 しかし、この提携は幻に終わる。関係者は多くを語らないが、当時の出来事は今も両社首脳にしこりのように残っているという。

 そこに追い打ちをかけたのが、楽天の携帯電話事業参入だ。2017年秋ごろ、ソフトバンクにおける「Y!mobile」のようなサブブランドを持たないドコモは、MVNO(仮想移動体通信事業者)として同社回線を活用する楽天との協業を検討していた。

 ドコモ関係者によれば「KDDIやソフトバンクに顧客を奪われるよりはマシ」として、楽天への送客のような取り組みを考えていたという。ところが協議のさなかに突如出てきたのが、「楽天が携帯電話事業に新規参入」の報道だった。

 「絶対に許さない」。裏切られたとの思いが強いドコモは、楽天にローミング(相互乗り入れ)の協議を持ちかけられても、受け入れるつもりはなかった。

 楽天とドコモの競り合いは営業現場でも激しさを増している。特にポイント領域でその傾向が顕著だ。

 楽天の営業先にドコモが間髪入れず営業をかけるのは日常茶飯事。ドコモはポイントの導入に伴うシステム改修費や販促費の一部を負担すると営業先に提案。その見返りとして他社に先行してdポイントを始めるよう働きかけており、楽天が後回しにされてしまうこともある。