受験者の若返りを掲げる新たな建築士制度。大学院在籍中の受験が可能になるため、研究活動を阻害するとの指摘が根強い。一方、一級建築士資格が取得できることを売りに学生を集めたい大学にとっては追い風になる。
「建築士法は教育に関係が深いにもかかわらず、我々に特段の相談もなく拙速に改正してしまった」。こう批判するのは、日本建築学会の古谷誠章前会長だ。
日本建築学会が危惧しているのは、大学卒業後すぐに一級建築士試験を受験できるようにしたことが、教育にもたらす影響だ。全国建築系大学教育連絡協議会が2019年8月に実施した調査では、約9割の大学が教育に影響があると回答し、このうち半数以上が悪影響を懸念していることが明らかになった。
大学院生が一級建築士試験の合格を目指して受験勉強にのめり込めば、ただでさえ就職活動に奪われがちな大学院での研究時間が大幅に減る恐れがあるからだ。修士1年の間は、ほとんど研究に身が入らなくなる事態も起こり得る。
仮に新卒採用試験で学生が一級建築士試験に合格していることを重視する企業が増えれば、採用活動が始まる前に受験し、合格しておいた方が得策と考えるのが自然だ。
現時点で、20年に一級建築士試験を受験しようと考えている学生の数は不透明だ。新制度に対する学生の反応は鈍いとみる大学教員がいる一方で、最近の学生は「真面目」で「資格取得に熱心」なので、在学中に一級建築士試験の合格を目指す人は一定数いるとの見方もある。
新しい建築士制度は、研究だけでなく、大学教育にも影響を及ぼす可能性がある。一級建築士試験の対策を念頭に置いた授業が増えて、大学が資格取得の「予備校」のような存在になるかもしれない。
これまでも、一級建築士試験の合格者数を意識して、試験対策を実施する大学はあった。例えば東海大学では、学校別合格者ランキングの10位以内から脱落したことを受けて、数年前から授業とは別に二級建築士試験の対策講座を開いてきた。試験勉強の習慣を付けさせて、卒業後の一級建築士試験の合格に結びつけてもらう狙いがある。