大規模な建物でも、外壁をせり出したり、鋳物のスクリーンで覆ったりする設計で、外壁の汚れにも配慮しながら浮遊感を生み出す。屋上の防水にはウレタン塗膜防水を採用。独自の納まりで、パラペットの意匠をシャープにするとともに、工費の削減などをもたらす。
自らが設計する建物について、どんな特徴があると考えていますか。
特徴の1つは、人を誘う浮遊感がある建物が多いことだと思います。建物がどっしりと着地していないというか。「追手門(おうてもん)学院大学1号館」(2009年)の設計で、上階にアルミキャスト(鋳物)の外装材を用いたのが最初です。桜をモチーフとしたアルミ外装材が透けて、ガラスの大きな建物が浮いているように見えると思います。
「追手門学院大学ACADEMIC-ARK」(19年)では、平面が三角形を描く大型建物の外周を大きくオーバーハングさせて浮遊感を持たせています。そして、1階をガラス面とし、2階から上を透明感のあるステンレスキャストの外装材で包み込みました。こうすることで、建築が浮いたように見え、人が建物に興味を持ち、内部に入ってみたいと思うこと、さらには、内部とランドスケープを視覚的にシームレスにつなげることを目指しました。
もう1つは、高さを抑えた空間をあえてつくっている点です。実際、いろいろな人から「須部さんの建築は天井が低いね」とよく言われます。よく使う天井高は2.1mや2.4m、2.7m、3.0m以上。今回もこの4つのレベルを使い分けています。このうち、法的に確保すべき最低限の高さ2.1mは、家の中のようにリラックスしてたたずむことのできる空間と捉えています。
例えば、ACADEMIC-ARKでは、廊下の壁沿いの天井高を2.1mに抑え、照明も絞りました。そこからドアを入った教室の入り口付近は2.4m、そして教室内部は高さ3.0m以上の開放的な空間としました。レベル差をうまく使うことで空間に多様性を生み出せます。
また、自分の建築を振り返ってみると、迷路的な空間をつくりたい、自然界のように多様な空間をつくりたいという欲求を持っている気がします。それは中学・高校時代に山岳部で山を歩いていたからかもしれません。
山肌に張り出した不安定な巨岩が大好きで、本能的にそこに登ってみたくなります。岩の足元にあるくぼんだ空間もとても居心地がよくて、ビバーク(野営)する場にもなります。そうした体験があるせいか、キャンチレバー(片持ち構造)を用いるほか、洞窟の中のようにいったん低くして大きく開いたり、光を落としてから明るくしたりといった空間の操作を無意識のうちに建築の中でやっているのでしょう。
また、洞窟の中で光の差すほうへ進んでいきたくなったり、チラッと見えた景色に引かれてそこを目指してみたくなったりします。その意味では「眺望」も私が大切にしている要素の1つです。
ステンレスの外装材で雨から外壁を守る
「台北南山広場」(2018年)では、高層棟の展望テラスや商業棟の屋外デッキで、まさに眺望を生かしています。水仕舞いには苦労されていますか。
雨水の処理や防水の仕様は、それまで私が20年ほどやってきた手法と基本的に同じです。「台北南山広場」の場合、低層の商業棟を覆うステンレスキャストの外装について、米国のコンサルタントなどと一緒にかなり検証し、現場で暴露試験も実施しました。このステンレスキャストはメンテナンスフリーです。キャストの外装があり、かつ低層部はオーバーハングさせているので、建物に雨が直接降り掛かりにくくなっています。