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ウレタン防水で独自の納まりを築く

追手門学院大学ACADEMIC-ARKでは、外壁をせり出し、ステンレスキャストの外装で覆っています。内部には大空間が広がり、最上階は教室群に囲まれた広い屋上庭園です。複雑な断面をしたこの建物では、雨水処理や防水、汚れ対策をどう考えて設計したのですか。

 まず、オーバーハングした建物の形態が汚れを寄せつけません。外装のキャストも、台北南山広場での検証を基につくっています。

 屋上の排水は、設計段階では通常の2倍程度のドレンを設けていました。しかし最近、台風や豪雨が多発しているのを受けてオーバーフロー管を追加しました。想定される最大雨量の3倍以上の処理能力になる計算です。

 実は、屋上広場の足元に広くて浅い雨どい(集水路)をぐるりと巡らせてあります。屋上から落とした水は、直下の4階にある3つのブリッジの下を通して建物外周へと流します。通常は直径100㎜のドレン配管で済むところを、ここでは直径150㎜としています。

南側から見た追手門学院大学ACADEMIC-ARKのエントランス上部のアップ。外装材は、桜の花をかたどったステンレスキャスト(写真:生田 将人)
南側から見た追手門学院大学ACADEMIC-ARKのエントランス上部のアップ。外装材は、桜の花をかたどったステンレスキャスト(写真:生田 将人)
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追手門学院大学ACADEMIC-ARK5 階のスカイガーデン。外周の教室群に囲まれた空間。4mの庇(ひさし)が張り出すテラスが巡る。テラスの内側に浅い雨どい(集水路)を設けている(写真:生田 将人)
追手門学院大学ACADEMIC-ARK5 階のスカイガーデン。外周の教室群に囲まれた空間。4mの庇(ひさし)が張り出すテラスが巡る。テラスの内側に浅い雨どい(集水路)を設けている(写真:生田 将人)
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 屋上防水は、パラペットまわりとオーバーフロー管周辺が弱点になりがちです。そこで私は20年ほど前にパラペットを縮小する防水仕様を考案して使い続けています。当初はゼネコンの品質管理の方々に実験してもらい、今のディテールに行き着きました。パラペットの立ち上がりや笠木、押さえコンクリートなどが不要なのでコストダウンと躯体(くたい)の軽量化も図れます。

 また、パラペットという概念をなくすことで建物本体の天井高さを増すこともできます。天端は、笠木なしで水切りのみの納まりです。水切りには、厚さ3㎜の2B材というどこでも入手できる安価なステンレス材を用います。熱収縮に配慮して、部材同士の継ぎ目に特殊なクリアランスを設けています。アスファルト防水のパラペットは大雨の際、屋上の水かさが増し、立ち上がりから漏水することがありますが、パラペットを低くし、水切りごとシームレスに防水できるため、このディテールが実現できます。

防水はウレタンの塗膜によるものですね。

 超速硬化ウレタン複合防水です。現場がシームレスに1枚の防水層となる。安心感があり、施工コストやデザイン面でもメリットがある防水方法です。ウレタンの特性で、下地が木でも金属でも、ウレタンは剥がれません。水切りの部分は、ウレタンを塗った後、その上に部材をビス打ちして、さらにウレタンを吹きます。

 この防水を使うと笠木をなくしてフラットバーの水切りで押さえることで、シンプルでシャープな納まりをつくれます。工期短縮など施工上の利点も大きく、将来のメンテナンス時も上からの再塗装だけで済みます。

中央が追手門学院大学ACADEMIC-ARKで、右の平屋はカフェテリア。カフェテリアの屋上は、通常はウレタン防水層の膨らみを防ぐために設ける脱気口をなくした(写真:生田 将人)
中央が追手門学院大学ACADEMIC-ARKで、右の平屋はカフェテリア。カフェテリアの屋上は、通常はウレタン防水層の膨らみを防ぐために設ける脱気口をなくした(写真:生田 将人)
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 追手門学院大学ACADEMIC-ARKに隣接する平屋のカフェテリアの屋根防水では新しい試みをしました。通常、下地のコンクリートなどから発生した水蒸気で防水層が膨らむのを防ぐために脱気口を設けます。この脱気口をなくしてみたのです。脱気口の設置は、わざわざ雨漏りのリスクがある危険箇所をつくるようなものです。ウレタン防水層が膨らまなければ脱気口はいらないので、メーカーと議論して硬いウレタンを使うことにしました。水蒸気で膨らもうとするところを押さえ込む材料に進化させた格好です。

 2019年秋、ゼネコンとメーカーの人たちが、過去に緑化下の防水として超速硬化ウレタン複合防水を使った追手門学院大学の状況を見に行かれました。10年以上たっても問題はなく、露出防水に通常レベルの紫外線劣化は見られるものの、土で被覆した防水層はほとんど劣化していなかったそうです。

須部 恭浩(すべ やすひろ)
三菱地所設計 建築設計三部 チーフアーキテクト
1972 年生まれ。95 年明治大学理工学部卒業、三菱地所入社。2001 年三菱地所設計。08 年上海事務所代表、09 年首席代表。11 年三菱地所設計諮詢(上海)有限公司設計総監。12 年台湾駐在を経て13 年から三菱地所設計