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 軒や庇(ひさし)といった、まさに雨仕舞いに直結する建築の部位を、周辺の都市のスケールとつなぐ要素として活用する竹中工務店大阪本店設計部の米津正臣氏。それぞれの建物で、境界部分に接点を見いだして設計に当たる。例えば、車のディーラーのショールームでは、道路と屋上が一体になったような建築を生み出した。どのような防水方法で、こうした斬新なデザインを実現したのか。

建築の設計とディテールをどう位置付けていますか。

 建築の設計は、プロジェクトごとに固有のテーマを見つけ出し、育てていくような作業だと考えています。ディテールも、美醜ではなく、そこでのテーマに沿ったものとして位置付けたいと思っています。結果として特別な納まりになることはあっても、ディテールそのものが独立した表現にならないように心掛けています。ディテールは印象を決定付けてしまうようなところがありますから。

竹中工務店大阪本店設計部設計第3部門設計1グループ長の米津正臣氏(写真:生田 将人)
竹中工務店大阪本店設計部設計第3部門設計1グループ長の米津正臣氏(写真:生田 将人)
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 ディテールは、屋根と壁がぶつかる場所や、内部と外部の境界、部材同士の接点に機能的・美学的な解決として生まれるものだと思います。それぞれの建物においてテーマとなる固有の境界条件を見つけ出して空間化するような設計の仕方は、ディテールを考えるときと似ていてどこか連続したものを感じます。

 全体と部分をスケールの違いを横断して考え、都市―建築―ディテールがつながったとき、うまくいったと感じます。また、その際、建築は都市の一部であり、拡張されたディテールともいえる存在になり、筋の通った説得力を持つと思います。

軒やといでスケールダウンして周辺と調和

「宝ホールディングス歴史記念館」(2017年)は、京都市内の景観規制がある場所に立つ企業美術館ですね。

 90周年事業として創業の地に建設した企業ミュージアムで、京都市伏見区の郊外、準工業地域に位置しています。準工業地域はほとんど何でも建てられる最も緩い用途規制のため、古くからの町家に加え、工場や大型スーパー、中層集合住宅など、様々な用途や大きさの異なる建物が混在。京都市景観条例で「旧市街地型美観地区」に指定されているものの、豊かな景観とは言い難いエリアでした。

「宝ホールディングス歴史記念館」(2017年)の北側ファサード。軒や庇を用いて白く大きな壁のスケールを調整するとともに、雨仕舞いにも配慮(写真:古川 泰造)
「宝ホールディングス歴史記念館」(2017年)の北側ファサード。軒や庇を用いて白く大きな壁のスケールを調整するとともに、雨仕舞いにも配慮(写真:古川 泰造)
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 ここでは、要求機能を収めた31m角の正方形平面を3層重ね、しっくい調塗装で外壁を白く仕上げました。近景ではフラットルーフに見えますが、3寸勾配の方(宝)形屋根を架けています。4つの面をいずれも正面と位置付け、立ち方で凛(りん)とした企業アイデンティティーを表しています。

 同時に、周辺環境と照らし合わせながら景観規制を丁寧に読み解き、再編集することで、周辺地域の指針となるような立ち方を目指しています。具体的には、断面では「軒」や「庇」、平面では「庭」を効果的に活用することで、隣接する町家のスケールとの調和、マンション住民のプライバシーへの配慮、地域植生とのつながりなどを図っています。

宝ホールディングス歴史記念館では、建物の裳階(もこし、軒庇)、塀の笠木(庇)は周囲の町家の屋根や軒庇の高さに合わせている。周辺とのスケールの調和だけではなく、大きな建物の重心を下げる目的がある(写真:古川 泰造)
宝ホールディングス歴史記念館では、建物の裳階(もこし、軒庇)、塀の笠木(庇)は周囲の町家の屋根や軒庇の高さに合わせている。周辺とのスケールの調和だけではなく、大きな建物の重心を下げる目的がある(写真:古川 泰造)
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宝ホールディングス歴史記念館のエントランスがある北側ファサード。2階と3階のコンクリートの打ち継ぎ目地を消し、面として抽象化(写真:古川 泰造)
宝ホールディングス歴史記念館のエントランスがある北側ファサード。2階と3階のコンクリートの打ち継ぎ目地を消し、面として抽象化(写真:古川 泰造)
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 塀の笠木や建物の裳階(もこし)は、通りを挟んで向かい合う町家の屋根や軒庇と高さをそろえました。これは周辺とのスケールの調和だけではなく、大きな建物の重心をぐっと下げる役割も果たしています。

 街に対して大きな立面として現れる外壁は、2階と3階のコンクリートの打ち継ぎ目地を消し、可能な限り抽象化させています。晴天の日は軒庇や樹木の影を映し出す背景となり、曇天の日は艶を落とした白壁が空に溶け込み輪郭が消え、建物の大きさ自体は変わらないものの、周囲と調和した存在になるように配慮しました。

 壁はコンクリートの上にFRP(繊維強化プラスチック)のメッシュを敷き、モルタルをしごいて平滑面をつくった上に、しっくい調の塗装を施しました。微細なクラックはメッシュが吸収してくれます。

宝ホールディングス歴史記念館の軒の出は1300㎜。軒どいを内部に組み込む納まりとして軒先をシャープに見せている。3寸勾配の方形屋根を架けているが、近景ではフラットルーフに見える(写真:古川 泰造)
宝ホールディングス歴史記念館の軒の出は1300㎜。軒どいを内部に組み込む納まりとして軒先をシャープに見せている。3寸勾配の方形屋根を架けているが、近景ではフラットルーフに見える(写真:古川 泰造)
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宝ホールディングス歴史記念館では、エントランスのある北面を除いて、縦どいは露出させ、周囲の民家と調和させている(写真:古川 泰造)
宝ホールディングス歴史記念館では、エントランスのある北面を除いて、縦どいは露出させ、周囲の民家と調和させている(写真:古川 泰造)
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 軒の出は1300mmで、軒下には建物をぐるりと一周するようにハイサイドライトを設け、屋根と外壁の縁を切っています。これは、排煙口や採光用の開口、給気口、自然換気窓、非常用進入口といった機能を影の中に収めるとともに、壁と屋根を分節することで、大きなボリュームを感じさせない工夫の1つです。

 縦どいは正面以外の3面に1本ずつ配置しています。外観に縦どいが現れないような納まりも可能でしたが、外部に露出させるほうが水仕舞いの上では健全です。また、縦どいがあるほうが、しっくいの蔵が残る周辺の街並みになじむのではないかとも考えました。雨量や流れる距離から、軒どいの水勾配は250分の1とし、縦どいの位置は各立面の真ん中からずらしています。