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 アルミ材やプレキャストコンクリートを外装に用いた白くミニマルなデザイン。これが、竹中工務店東京本店設計部の花岡郁哉氏による設計の特徴だ。意匠優先のようにも見えるが、実は細部まで緻密に考えられたディテールがそれを支えている。ファサードの汚れなしで内部に快適な光環境をもたらす設計法とは。

省エネや快適性の確保に加え、防水や雨水処理も緻密に検討したファサードデザインが多いですね。

 私はこれまでに、オフィスや店舗、住宅など、様々な用途や規模の建築を設計してきましたが、その中にも特徴があると思っています。特徴の1つは、オフィスについては中規模の建物を比較的多く手掛けてきたことです。

竹中工務店東京本店設計部の設計第2部門設計4(アドバンストデザイン)グループ長の花岡郁哉氏(写真:山田 愼二)
竹中工務店東京本店設計部の設計第2部門設計4(アドバンストデザイン)グループ長の花岡郁哉氏(写真:山田 愼二)
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 例えば、オフィスが企業・団体の本社・本部ビルの場合、その多くはクライアントが長期間にわたって所有・運営することになります。そのため、設計では省エネ性能や快適性が重視されます。そのとき大きなテーマになるのが「温熱環境」と「光環境」です。

 最近手掛けた中規模オフィスの中でも、「日本海事検定協会本部ビル」(2018年)と「カンダホールディングス本社」(19年)の2件は、特に光環境に工夫したプロジェクトです。

 中規模オフィスの設計は、ワンフロアの面積が200m2、500m2を境にして内と外との関係が大きく変わります。日本海事検定協会本部ビルのワンフロアは200m2を切っています。一方、カンダホールディングス本社は200m2を超える広さがあります。

 同じ中規模オフィスでも、ワンフロアが200m2を切るか、超えるかで設計の手法は異なります。ファサードデザインも全く違うものとなり、それぞれに雨水処理や汚れ対策などのディテールを考案しています。

排水と汚れを考慮したPCaルーバー

日本海事検定協会本部ビルの場合、防水や汚れ対策をどのようにファサードデザインに落とし込んだのですか。

 一般的な大型オフィスは、窓から1mほど離れたところからデスクをレイアウトします。しかし、日本海事検定協会本部ビルくらいの規模になると、人が窓に張り付くくらいの感覚で設計しないと空間がもったいない。そこで、このビルの設計は、人の行為が建物の正面や側面に刻み込まれるようなイメージを持って進めました。

南側の幹線道路から見た「日本海事検定協会本部ビル」(2018年)の全景。間口11mのオフィスビルの全面をPCa製の水平ルーバーで覆っている。開口部のガラスは、アルミサッシ枠なしでルーバーに納め、ガラス取り付け部の真下に水抜きパイプを埋め込んでいる(写真:竹中工務店)
南側の幹線道路から見た「日本海事検定協会本部ビル」(2018年)の全景。間口11mのオフィスビルの全面をPCa製の水平ルーバーで覆っている。開口部のガラスは、アルミサッシ枠なしでルーバーに納め、ガラス取り付け部の真下に水抜きパイプを埋め込んでいる(写真:竹中工務店)
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 それが現れているのが、幹線道路に面した南側のファサードを構成するプレキャストコンクリート(PCa)の水平ルーバーです。ルーバーの室内側には、間口いっぱいとなる幅10mの作業デスクがあります。窓沿いに大きいデスクを設けることで、内部の省スペース化を図ったわけです。

 ただし、南向きの窓際なので光環境を考慮しなければなりません。そこでPCaの水平ルーバーをガラス面から60cm以上張り出し、できるだけ彫りの深いファサードとしました。ファサードのガラスは、分かりやすく言うと開閉する箇所以外は、アルミサッシの枠を省略してPCa部材に対して直接ガラスをはめ込んで納めています。これは特にローコスト化を図る際、私がしばしば取り入れる納まりです。

日本海事検定協会本部ビルの5階、南側のペリメーターには水平ルーバーと一体でカウンターを設けた(写真:竹中工務店)
日本海事検定協会本部ビルの5階、南側のペリメーターには水平ルーバーと一体でカウンターを設けた(写真:竹中工務店)
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日本海事検定協会本部ビルの4階、南側のテラスは会議室との一体的な利用が可能(写真:竹中工務店)
日本海事検定協会本部ビルの4階、南側のテラスは会議室との一体的な利用が可能(写真:竹中工務店)
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 水平ルーバーは工場製作のPCaなので、細かい部分までつくり込むことができます。このPCa部材は、ガラス取り付け部の真下に水抜きパイプを埋め込んであり、万が一シールが切れてもそこから排水できるようにしました。つまり、サッシと同じような排水機構をPCa部材に持たせたわけです。ガラスはケンドン式で落とし込んだので押し縁もなく、枠のないすっきりとしたガラスの開口となりました。

日本海事検定協会本部ビルの5階を中心とした窓まわり(写真:竹中工務店)
日本海事検定協会本部ビルの5階を中心とした窓まわり(写真:竹中工務店)
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 直接光をカットしつつ光を反射させながら柔らかく取り込むため、水平ルーバーを白色にしました。そのため入念な汚れ対策を取りました。水平ルーバーの先端近くには排水用の溝が切ってあり、両側の袖壁に向けて水を流します。

 袖壁は基本的には現場打ちコンクリートですが、表面のひと皮だけをPCaで製作し、そこに縦どいを埋め込んで、水を下へ流す仕組みです。外観をよく見ると分かりますが、袖壁には四角い塞ぎプレートがあり、そこを開けると掃除できるようになっています。

 一見、ミニマルなファサードですが、実は排水と汚れに配慮した複雑なディテールが隠されています。そうした対策を講じたことで、竣工から2年以上たった今も汚れはほとんど見られません。

前面道路から見た日本海事検定協会本部ビルの夕景。水平ルーバーの内側は、2~3階が吹き抜けの階段、4階が外部テラス、5~9階は事務室となっている(写真:竹中工務店)
前面道路から見た日本海事検定協会本部ビルの夕景。水平ルーバーの内側は、2~3階が吹き抜けの階段、4階が外部テラス、5~9階は事務室となっている(写真:竹中工務店)
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