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 人工知能(AI)とビジネスに精通した「教師役」が不足する中、ビジネスで活躍するAI人材を大量に育てるには――。

 この難問に正面から取り組んだのが、経済産業省の課題解決型AI人材育成事業「AI Quest」だ。2019年9月末から2020年2月まで約200人を対象に育成プログラムを運営し、その成果を報告書にまとめてWebサイトに公開した。官庁主導の実証実験としては珍しいことに、うまくいかなかった点やその理由も率直かつ具体的に示している。

今回のAI Questの目標は、エンジニアを「ビジネス側との懸け橋になるAI人材」に育てること
今回のAI Questの目標は、エンジニアを「ビジネス側との懸け橋になるAI人材」に育てること
(出所:AI Quest事業事務局)
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 AI人材不足の解消は、日本企業の競争力アップの向上に直結する。担当者への取材を基に、AI Questが指し示した「AI人材大量育成」の勘所を明らかにする。

「教師なしPBL」をどう実現するか

 AI人材を育てる手法の1つとして、課題解決型学習(PBL:Project Based Learning)が有効であるとのコンセンサスが得られつつある。

 例えばNECはAI人材の育成にPBLを採り入れている。「座学によるAI研修だけでは、ビジネスの現場で活躍できるAI人材を育成できないことが分かってきた」(NECの孝忠大輔AI人材育成センター長)ためだ。20日間のブートキャンプ形式の研修で、最後の5日は「データだけ渡し、課題を自ら発見し、解決策を提示してもらう」(同氏)という。

 ただしPBLには弱点もある。1人の講師が教えられる学生の数に限りがある点だ。経済産業省によると、受講者に100時間以上のコミットを求める長期プログラムの場合、20~30人ほどの少人数の研修となるケースが多いという。このため経産省はこれまでのAI教育について「裾野のリテラシー教育(MOOCsやeラーニング等)と、少人数で対面にて行う実践的なハイレベル教育(大学・民間講座等)の二極に偏りがち」と分析している。

 フランス発の無償ITエンジニア養成校「42」のように、受講生が学び合いながらAI人材として成長する新たな手法を確立できれば、教師不足の問題を解決できるのでは――。こうした仮説に基づき、民間企業を巻き込んで始まったのが「AI Quest」だ。

 AI Questの目標は、ビジネスとAI技術を橋渡しする人材を、教師の数に頼らずにで育成することだ。

 「『教師に頼らない教育の手法を見いだす』という目標は、42 Tokyoの目指す方向と同じだ」と、AI Quest事業を主導する経済産業省 情報経済課の小泉誠課長補佐は語る。「(生徒数人、講師1人になる)OJTは生産性が低く、企業のAI人材の需要増に応えられない」

 対象は機械学習など一定のAIスキルを持つエンジニア。複数の企業から集めた事例やデータを題材に、「ビジネス課題の抽出」「データの分析」「解決策の導出」までを一気通貫で体験する。

 この事業を民間企業として受託したのが、戦略コンサルティングのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、機械学習コンテスト開催のSIGNATE(シグネイト、東京・千代田)、教育スタートアップのzero to one(ゼロ・トゥ・ワン、仙台市)だった。

 「SIGNATEには3万人の機械学習エンジニアが登録しているが、ビジネス課題を発掘できる人材なしには、この3万人の力は生かせない。ビジネスと技術を橋渡しする人材が必要だ」。AI Quest事業に参加したSIGNATEの斉藤秀社長はこう語る。

 SIGNATEやKaggle(カグル)など機械学習コンテストに参加する国内エンジニアの数は増えているものの、解くべき課題を作成しているのは主催者側。ビジネス課題を発掘する能力は、AIコンテストのみで磨くのは難しい。AI Questが目指すのは、まさにそうした橋渡し人材の育成だった。