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 「数理・データサイエンス・AI」の素養を高校生・高専生・大学生にどう身につけてもらうか。政府主導のAI教育改革を阻む壁として、特集第1回では特に「文理の壁」についての実態を明らかにした。

 AI教育改革に立ちはだかるのは文理の壁だけではない。「副専攻の壁」「インターンの壁」「女性活躍推進の壁」が、優秀なAI人材の育成を妨げている。

 数理・データサイエンス・AIの教育をどう設計するか。行く手を阻む「壁」の正体とは何か。3人の識者に語ってもらった。

日本学術振興会前理事長 安西祐一郎氏

AI副専攻で「専門性×AI」の人材を育成へ

 大学生や高等専門学校(高専)生の理系全員と一部文系の25万人卒/年に「数理・データサイエンス・AI」の応用基礎教育を課す計画を進めている。理想としては対象者全員が「大学を卒業すれば、当たり前のようにデータを操れる」ようになってほしい。

日本学術振興会の安西祐一郎前理事長
日本学術振興会の安西祐一郎前理事長
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 これまで大学生がAI技術の習得するうえで壁になっていたのが、日本の大学制度において学位の対象になる主専攻とは別に履修する「副専攻」の位置づけが明確でなかった点だ。「経済学×AI」のような複数の分野にまたがる専門性を、企業に認めてもらいにくかった。

 改善の兆しは見えつつある。文部科学省は2019年の省令改正で、副専攻を履修した学生に交付する学修証明書について、制度上の位置づけを明確にした。

 25万人を対象とするAI教育は、それぞれの学部が副専攻として実施するのが望ましい。まだ日本で副専攻の知名度は低いが、企業も新卒採用に当たっては、こうした副専攻の履歴をぜひ評価してほしいと考えている。

 コンピューターサイエンスの基礎である「データ構造」と「アルゴリズム」の考え方は、大学生や高専生であれば文理問わずぜひ身につけてほしい。記号処理や論理演算の考え方は、従来の数学の授業からは身につかない。これは現代のリテラシーとして学ぶべきものだ。

 AI副専攻の成果には大変期待しているが、「有用な実データさえ用意してもらえれば、分析します」という人材はビジネスの現場で活躍できない。手元にデータがない状況から、データの価値を見極め、データを探し、データを作り、データを組み合わせる。そんな統合力が求められている。

ボストン・コンサルティング・グループ マネージング・ディレクター&パートナー ド・ロービエ・ロマン氏

長期インターンで「ビジネススキル」を身につけよ

 AI技術やデータサイエンスを学んだ大卒エンジニアは、日本と欧米の間で技術レベルに大きな差はない。ただ全体の傾向として、欧米の大卒エンジニアはコミュニケーションスキルやビジネススキルの面で優れている人が多いと感じている。

ボストン・コンサルティング・グループのド・ロービエ・ロマン  マネージング・ディレクター&パートナー
ボストン・コンサルティング・グループのド・ロービエ・ロマン マネージング・ディレクター&パートナー
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 理由の1つに、欧米の大学生の多くは在学中、3カ月~1年にわたって企業で働く長期インターンを経験している点がある。例えば「サービス解約者の傾向を分析して解約を抑制する」といったデータ分析業務をインターンが担う。学生はビジネスの最前線に身を置き、ビジネスに役立つデータ分析を学ぶ。

 例えば私が通っていたフランスの教育機関の修士課程では、6年間のうち1年間のインターンが「必修」扱いだった。うち半年はフランス国内、もう半年は国外でインターン先の企業を探す。

 企業にとっても長期インターンは大きな利点がある。優秀な学生を採用するパスになるとともに、インターン学生を低コストのAI人材として使える。学生はインターンの経験をその後の学業に反映し、より実践的な研究ができる。日本と欧米は新卒採用のプロセスが異なるが、長期インターンを活用した人材育成の手法は参考になるはずだ。