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5G前線がもたらす嵐の前後では、エレクトロニクスの業界地図が大きく変わる。高級カメラまでもがスマホに吸収され、Intelのいない5Gパソコンが登場する。5G×8Kテレビでケーブルテレビや地上テレビ局が存亡の危機を迎える。5Gインフラ自体のコモディティー化が始まり、Huaweiは強みを失う。かつてHuaweiに敗れたCiscoが“5GのOS”を握って笑うことになりそうだ。

 「ソニー復活!」「Galaxy S20と遜色がない」

 各種端末の“5G化"を示す象徴的な例の1つが高級カメラといえる。ソニーモバイルコミュニケーションズはソニーが持つ1台約40万円の高級カメラ「α9」シリーズの高い撮影技術を最新の5Gスマートフォン「Xperia 1Ⅱ」に惜しげもなくつぎ込んだ。

【5Gスマートフォン】
ソニーが高級カメラ機能を供出

 その結果、YouTubeに既に幾つもあるXperia 1Ⅱと韓国Samsung Electronicsの5Gスマートフォン「Galaxy S20 Ultra」の比較サイトではXperia 1Ⅱを評価する声が溢れた。総合的な仕様でGalaxy S20 Ultraを大きく上回っているというわけではないものの、市場シェアでは圧倒的に差がある製品に対し、遜色がない性能とデザインのスマートフォンが出てきたという点で、かつてのソニーの復活を感じる人が多かったようだ。

 実際、Xperia 1ⅡとGalaxy S20 Ultraには大きな違いがない(表1)。SoC(System on Chip)はどちらも米Qualcomm製「Snapdragon 865」または、一部の国・地域向けGalaxy S20 Ultraではそれとほぼ同性能のSamsung製「Exynos 990」を採用しており、筐体の寸法などもよく似ている。

表1 ソニーモバイルとSamsungの5Gスマートフォンの主な違い
表1 ソニーモバイルとSamsungの5Gスマートフォンの主な違い
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画素数は高級カメラの3倍超に

 違いもあるにはある。Galaxy S20 Ultraが最大1億800万画素という超高精細カメラと、100倍ズーム機能という分かりやすい性能を売りにしているのに対してXperia 1Ⅱはディスプレーの高精細さと撮影の基本機能の高さで勝負した。

 撮影の基本機能の高さは、例えば、オートフォーカス(AF)と自動露出測定(AE)処理を60回/秒という高速で実現し、動きの速い被写体でも20コマ/秒で連写できるようにした。これらがまさにソニーのα9や業務用カメラの技術だ。Xperia 1Ⅱの3つのカメラの画素数はいずれも2440万画素相当注1)。これも、α9の2420万画素相当にほぼ並ぶ。

注1)Xperia 1Ⅱ搭載カメラの精細度はカタログ上は1220万画素。ただし、これはカラーフィルターを基にした値で、実際にはソニーモバイルはXperia 1以降、1カラーフィルターに2つのフォトダイオード(PD)を割り当てる「Dual PD」技術を用いているため、実質的には2440万画素相当となる。ソニーは2019年12月に開催された半導体素子の学会「65th International Electron Devices Me eting(2019 IEDM)」で、1レンズ付きカラーフィルターにPDを4個割り当てる「Quad Bayer Coding(QBC)2×2 On Chip Lens(OCL)」技術も発表している。

 Galaxy S20シリーズを含む世界の5Gスマホのカメラは4800万画素が標準スペックになりつつあり、ほとんどの高級カメラの画素数を超え始めた注2)

注2)2020年3月6日に中国OPPOが発表した5Gスマートフォン「Find X2」では、ソニー製の4800万画素のイメージセンサー「IMX689」を採用した。ソニーがイメージセンサーの高精細化競争から降りたわけではないようだ。

 価格はGalaxy S20 Ultraが約15万円、Xperia 1Ⅱはまだ価格を発表していないが、専門サイトでは11万円前後になるという見立てだ。これは、一般的なノートパソコン並みの価格である。それが多数売れるなら、ニッチ市場の高級カメラの技術を大事に囲っている場合ではないと考えた可能性が高い。

 高級カメラとスマホのカメラでは、レンズ径が大きく違うが、それによる明るさの違いやソフトフォーカスの制御は、センサー側の信号処理でカバーできる。最後に残る高級カメラの砦は、質感やカメラとしての形状ぐらいになってしまう。

 Galaxy S20 Ultraでも1200万画素の超広角用カメラのイメージセンサーはソニー製であるもようだ注3)。ソニーにとっては、競合他社のスマートフォン向けも含め、高性能イメージセンサーの需要が増えることは市場戦略に合致しているといえるだろう。

注3)Galaxy S20 Ultraの残り2つのカメラはSamsung Electronics製のもようだ。Samsungは広角用1.08億画素のイメージセンサーは同社の「ISOCELL Bright HM1」だと発表している。

 4G/LTEまでのスマートフォンが小型カメラ市場を破壊したように、5Gスマートフォンが高級一眼レフ市場を壊す可能性は高い。