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 タナカさんはテキストチャットのアプリケーションを閉じてオノ課長からのメッセージを無視するようになっていた。それに業を煮やしたオノ課長はタナカさんに電話をかけ「なぜチャットを見ないのか。仕事にならないだろう」と声を荒らげた。タナカさんは言い返さなかったが、オノ課長への信頼感をすっかり無くしていた。電話を切ったあと、あきれると同時にストレスから「オノ課長はわかってないなー」と声を上げた。

悪気はなくてもノウハウが欠如している

 新型コロナ対策のため、これまでテレワークに取り組んでこなかった企業や、一部の社員だけがテレワークをしていた企業でも、全社的な導入が始まった。そのため多くの現場でこんな事態が発生しているようだ。

 オノ課長は悪気があってしつこく進ちょくを聞いているわけではない。テレワークであっても、オフィスにいるときと同じように部下の状況をつぶさに把握しようとしただけだ。さらにテレワークで部下が不安になっているかと気遣い、普段より密にコミュニケーションを取った。しかし結果としてタナカさんら部下の仕事を大いに邪魔したうえに、上司としての信頼を失った。

 オノ課長の最大の問題はテレワークのノウハウが欠如していることだ。テレワークには特有のノウハウが必要であることを理解していない。オフィスでうまく機能していたマネジメント方法でも、テレワークに持ち込むと破綻することがある。

 ではオノ課長はどうすればよかったのか。テレワークでのマネジメント方法についての教科書があるわけではないが、筆者がテレワークのコンサルティングをしてきた経験を基に助言しよう。

 それは部下一人ひとりに合わせてマネジメント方法を変えることだ。例えば中堅クラスのタナカさんに対しては、タスクで行き詰まるか、完了したときに報告するよう指示すればよかっただろう。中間のチェックポイントとして、企画書のある項目まで書いたら提出させてもよい。普段からタスクの納期を守る部下については、報告の頻度を自分で決めさせてもいいだろう。

 テレワークでは上司が部下の様子をつぶさに把握するのは難しい。コミュニケーションが煩雑になるし、部下からすれば監視されている気持ちになる。上司が部下をさりげなく観察できるオフィスとは違うのだ。

 キーポイントは主体性である。上司が指示しなくても、部下が主体的に動いて報告・連絡・相談をしてくる。部下のそういう主体性を引き出すマネジメントがテレワークではより重要になる。

 もちろん仕事の基本を習得中の若手は例外だ。テレワークであろうと、常に様子を把握しつつ必要に応じて助ける必要がある。うまく指導すれば、テレワークは若手にとって実践スキルを磨く有効な機会となる。しかし中堅クラス以上は主体性を重んじるマネジメントに変えるべきだ。そうしなければ、上司も部下も無駄に疲弊してしまう。

 部下に何を任せられるか、上司として何をすべきか。これを改めて考える機会としてはどうだろう。