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 デジタルトランスフォーメーション(DX)はデジタル技術を駆使して商品やサービスを生み出したり、既存の業務プロセスを抜本的に見直したりすることを指す。デジタル技術を積極的に取り込むようにするための、組織や企業文化の変革を伴う。

 単なるITシステムの導入ではないため、DXの初期フェーズで何から手を付ければよいか悩む企業は多い。約3年前からDXに取り組み始めた三菱ケミカルホールディングス(HD)はどのような順序で着手し、いかにしてDXを軌道に乗せたのか。詳しくみてみよう。

精鋭を集めて「外様チーム」を作る

 三菱ケミカルHDの取り組みは2017年4月から始まった。日本IBMで東京基礎研究所の所長やスマーターシティ事業の執行役員などを歴任した岩野和生氏を招き入れ、同社初のCDO(最高デジタル責任者)に任命した。

三菱ケミカルホールディングスのDX関連の取り組み
三菱ケミカルホールディングスのDX関連の取り組み
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 DX推進部門の組織構築を任された岩野氏は、自身のこれまでの経歴で得た人脈を基に、精鋭と呼べる人材を三菱ケミカルHDに集めた。岩野氏はIBM退任後、科学技術振興機構の上席フェローや、三菱商事のビジネスサービス部門の顧問を務めるなど、IT業界以外にも幅広い人脈を持っていた。

 2020年4月から岩野氏の後任としてCDOを引き継ぐ浦本直彦氏もこのときに呼ばれた1人。日本IBM東京基礎研究所で自然言語処理やWeb関連技術について研究していた人物で、人工知能学会の会長を務める。2017年6月に日本IBMから三菱ケミカルHDに移籍した。

三菱ケミカルホールディングスの浦本直彦Digital Transformation Group Chief Digital Technology Scientist
三菱ケミカルホールディングスの浦本直彦Digital Transformation Group Chief Digital Technology Scientist

 2017年9月に、岩野氏配下のDX推進部門として10人弱からなる「デジタルトランスフォーメーション(DX)グループ」が発足する。その過半数は岩野氏就任以降に三菱ケミカルHDに集まった人材だ。いわば「外様」の人材でDX推進部門を構成した格好である。

 DXグループの人員獲得と並行して岩野氏が進めたのが事業部門や工場の訪問だ。メンバーとともに様々な部署を毎日のように訪れては、現場の課題を聞いて回った。外部から精鋭メンバーを集めた割には実に地道な活動である。「事業部門からの信頼を得るのが大切だと考えた」と岩野氏は当時を振り返る。

 事業部門を訪れて見つかった課題に対し、DXグループはプロジェクトを立ち上げるなどして解決へ導いた。プロジェクトは4つのタイプに分類した。最も手間の少ないのが「Type0」。事業部門が既に進めているプロジェクトに対し、DXグループがアドバイスするものだ。「専門家がアドバイスするだけで、成果が大きく変わるようなプロジェクトがあった」(岩野氏)。

 事業部門が現在直面している課題を解決するプロジェクトが「Type1」。現時点では問題ないものの、将来的に重要になる案件が「Type2」だ。最後の「Type3」は、グループ全体や化学業界に関わる社会的なプロジェクトである。

 当初は、現状の課題を解決するType1に50パーセントの労力を割り当てる予定だった。Type2とType3に20パーセントずつ、Type0は10パーセントの割合だ。

 しかし、実際には相談を受けるだけのType0が全体の30パーセントを占めた。Type1は60パーセントと、予定の50パーセントよりも多くなった。Type2は10パーセント、Type3に至っては0パーセントとほとんど手を付けられなかった。

プロジェクトの種別とその活動比率
プロジェクトの種別とその活動比率
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 この成果を見るだけでも、最初から一足飛びに業界全体にインパクトを与えるような変革は難しかったことが分かる。ただ、相談を受けるType0や現状の課題を解決するType1に注力したことで「当初の目標の1つだった、事業部門の信頼を得ることに成功した」(岩野氏)。2017年度が終わるころには事業部門から様々な相談の依頼が舞い込むようになったという。