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 プラント大手の日揮ホールディングスは2018年からトップダウンでデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。特徴は陣頭指揮を執るCDO(最高デジタル責任者)が初期フェーズで人事部門を管轄していたことだ。最適な人材を配置したチームを機動的に組織してDXを進めた。

10年後のあるべき姿と活用すべきテクノロジーをまとめる

 日揮ホールディングスがDXに踏み出したのは経営トップの決断による。きっかけは、主要顧客である石油メジャーの幹部から言われた言葉だった。

 その言葉の要旨はこうだ。「デジタル技術の進展により、十数年後にはプラントエンジニアリングの様相は一変しているだろう。日揮グループには柔軟に対応してもらい、進化し続けてほしい。決して(環境の変化に追従できずに絶滅した)恐竜のようにはならないでほしい」。

 顧客からの期待に応えるべく、日揮(当時、現日揮ホールディングス)は2018年4月に花田琢也氏をCDOに任命。CDO配下に社内に点在していたIT部門を集約し「データインテリジェンス本部」を設置した。

日揮ホールディングスの花田琢也常務執行役員Chief Digital Officer(CDO)デジタル統括部長
日揮ホールディングスの花田琢也常務執行役員Chief Digital Officer(CDO)デジタル統括部長

 花田CDOは当時、人財・組織開発部長を兼務していた。これにより、機動的なDX推進体制の構築を可能にした。CDOがデジタル部門だけではなく、人事部門も統括したケースは国内企業では珍しい。

 CDOが人事部門長を兼務した効果はすぐに表れた。DXの第一歩として、約10年先を見据えた2030年までのデジタル戦略「ITグランドプラン2030」を策定したときのことだ。プランの策定チームのメンバーに最適な人材を確保できた。

 ITグランドプラン2030の策定には、データインテリジェンス本部に加えて事業部門のメンバーを引き入れた。人選にはこだわった。

 人選について花田CDOはこう話す。「約10年後のプランを策定するのだから、そのときに日揮グループで活躍している年代がメンバーの中心になるべきだ。このため年齢は50歳以下とした。逆に若ければ良いというわけではない。当社の業務を理解した30歳代が下限だ。しかも現状を何とか変えたいというマインドの持ち主でなければならない」。

 これらの条件を兼ね備える人材を様々な部門から集めるには、一般的には人事部門や各事業部門長と調整しなければならないだろう。しかし日揮の場合は人事部門への相談を省くことができた。効率良く必要な人材を集められたのである。

 こうして各部門から最終的に集めたのは約30人。6カ月間かけて2018年12月にITグランドプラン2030は完成した。

 ITグランドプラン2030では、大きく「AI設計」「デジタルツイン」「3Dプリンタ・建設自動化」「標準化・モジュール化」「スマートコミュニティ」の5分野に分けてデジタル化のロードマップを示した。各分野で実現すべきことをまとめた。

日揮(当時)が策定したITグランドプラン2030
日揮(当時)が策定したITグランドプラン2030
(出所:日揮ホールディングス)
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日揮のITグランドプラン2030を表形式で整理
日揮のITグランドプラン2030を表形式で整理
(出所:日揮ホールディングス)
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 例えば、プラントの設計をAI(人工知能)で実施する「AI設計」を実現するには、前段階として「シニア技術の形式知化・ルール化」や「単純作業の自動化」を達成している必要がある。

 ITグランドプラン2030を策定し終えると、その実装段階に移った。2019年1月からはITグランドプラン2030で定めた内容を実装する優先順位を付けたり、より細かい計画を作り込んだりしていった。「ITグランドプラン2030で示したテーマは、いわば新幹線『のぞみ』の停車駅。駅と駅の間には『こだま』や各駅停車の駅がある。細かい粒度で実行すべきことを決めていった」(花田CDO)。