全5929文字

社内のコミュニケーション停滞を打破する――。約3年前のコクヨの東京・品川のオフィス移転にはこんな目的があった。入社して数年という若手社員で構成する働き方改革タスクフォースを立ち上げたところ、風通しのよいオフィスができあがった。

 若手を含めた社員と管理職、管理職と経営層のそれぞれでコミュニケーションが滞り、社内の風通しが悪くなっているのではないか。こんな経営トップの懸念をきっかけにここ数年、自社の働き方改革を推し進めてきたのがコクヨだ。文房具やオフィス家具の販売のほか、働く環境の構築支援コンサルティングや、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などを手掛ける。

 コクヨは1969年以降、社員が働く姿を見学できるようにしたオフィス「ライブオフィス」を通して、時代に合わせた新しい働き方を顧客企業に提案してきた。創立100周年を迎えた2005年ごろ、社内の働き方に関する制度やルールを大幅に見直した。

 その後、働き方の改善は継続的に進めてきたものの、抜本的な見直しには至っていなかった。しかし、黒田英邦社長が冒頭のような社内の雰囲気に関する課題に気付いたのを機に2017年、都内の3カ所に分散していた拠点について東京・品川のオフィスを刷新して集約するタスクフォースを立ち上げた。移転の対象社員数は730人である。

 コクヨ財務経理本部IRユニットの三浦慎一郎ユニット長は「当時は市場の動向もあって業績が低成長の状況だった。その状況から脱却を目指すための一策として社員が働く場といった足元をしっかりと固め直す必要があった」と振り返る。

働き方をリセットするため徒歩5分のビルへ移転

 東京・品川のオフィス刷新については、既存のオフィスや働き方を「リセット」する狙いから、従来のオフィスから歩いて5分ほどのオフィスビルに「東京品川SSTオフィス」を新設し、移すことにした。2017年1月、働き方改革タスクフォースが本格的に立ち上がり、同年10月の移転に向けて新しいオフィスでの働き方や働く環境の整備を進めた。

コクヨの東京品川SSTオフィスのエントランス。コクヨの創業から今にかけて、幾つかの転換点があったことを白い大きなオブジェで表現している
コクヨの東京品川SSTオフィスのエントランス。コクヨの創業から今にかけて、幾つかの転換点があったことを白い大きなオブジェで表現している
(出所:コクヨ)
[画像のクリックで拡大表示]

 働き方改革タスクフォースは2週間に1度、黒田社長をはじめとする経営陣を交えたミーティングをしながら進めていった。黒田社長自らが拠点の入り口に立ち、社内報の号外を社員に配るなどして、働き方改革を社内に広くアピールした。

 働き方改革タスクフォースの特徴は、入社して数年といった若手社員をメンバーにしたことだ。「会社の文化になじんだ社員だと忖度(そんたく)しがちで、働き方や働く環境を大きく変えられない。そう考えた人選だ」と、コクヨ経営管理本部働き方改革タスクフォースの新居臨タスクフォース長は説明する。

 新居タスクフォース長は働く場のデザインやワークスタイル関連のコンサルティングを手掛けてきた働き方改革の経験者。その経験を買われてタスクフォースをとりまとめることになった。

 働き方改革タスクフォースで目指したのは、社員と会社の関係を見直し、社内のコミュニケーションを円滑にして、風通しを良くすることだ。上司と部下の関係も改めて、「上司の指示で仕事をする」という働き方から、「立場を越えて社員同士が自由に対話するなどして、創造性を高めて仕事を進めていき、持続的に成長できるようにする」といった働き方に変えていくことを目指した。

管理職へのヒアリングの後、若手メンバーが驚きの提案

 働き方改革タスクフォースを始めるに当たり、新居タスクフォース長は黒田社長から「メンバーが驚くような提案をしても却下せず、必ず遂行するように」と指示を受けていた。タスクフォースを始めると「業務の現場から反発が起こるような提案がメンバーから出てきた」と新居タスクフォース長は振り返る。

 メンバーたちはまず業務部門の部長などの管理職にヒアリングした。ヒアリングは「各業務部門の皆さんがどのように働いているのかをはっきりとつかめていません。新しい働き方を見極めるためにもヒアリングしてきます」と言って自発的に始めたものだ。

 各部門の管理職はメンバーのヒアリングに積極的に協力した。「部署のメンバーを集めて仕事を進めていきたい」「固定席はどうしても必要だ」といった要望をメンバーに託した。メンバーたちが1カ月ほどにわたったヒアリングの結果をまとめたところ、「自分たちの部門の仕事に合ったオフィスがほしい」というニーズが多く挙がっていると分かった。

 こうしたニーズを踏まえてメンバーたちが出した結論が「部門に合ったオフィスではなく、部署や上下の関係によらないユニバーサルなオフィスを作る」ことだった。「ヒアリングで多く挙がったニーズに沿って新オフィスを作れば、上司の指示で仕事をするといった従来の働き方から脱却できない」と判断したうえでメンバーたちが導き出した結論だった。

 ユニバーサルなオフィスとは、社員は上司や部下といった役職や役割にかかわらず、仕事の内容に応じてオフィス内で働く場所を自ら選ぶ働き方である「ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)」ができるオフィスを指す。

 それまで一部の事業部門で採用していた固定席を廃止することにした。社員はそれぞれノートパソコンやスマートフォンを持って、オフィス内の最適な場所で仕事をできるようにする。そのため無線LANを整備したフリーアドレス制オフィスを導入すると決めた。