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 建築工事では、様々な工種の専門工事会社が下請け会社として現場に出入りし、タイミングによっては複数が同時に作業することになる。元請け会社は、そうした工種同士で干渉しないように、スケジュールをきめ細かく設定する必要がある。それが十分でない元請けは、有能な下請け会社から敬遠されることになる。

事例1
現場入りしたのに作業できず二度手間に

 電気工事会社のAさんは旧知の大工職から、それまで付き合いのなかった工務店を紹介された。元請けとして新築戸建て住宅を年間十数棟、コンスタントに受注している地域工務店だ。

 初めて会ったその工務店の現場監督は、比較的若いようだが覇気がなく、疲れ切っているように見えた。Aさんは嫌な予感がした。だがAさんは、長年のなじみである別の住宅会社の受注量が減り、Aさんへの依頼も減少傾向にあったため、取引先を少しでも広げたいと考えていたところだった。Aさんはできるだけ金額を抑え目にまとめた見積もりを示し、この工務店から戸建て住宅建築で首尾よく電気工事の仕事を受けた。

元請け会社の工程表どおりに現場に入ったが、前工程が終わっていなくて作業できなかった(イラスト:anne)
元請け会社の工程表どおりに現場に入ったが、前工程が終わっていなくて作業できなかった(イラスト:anne)
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 現場が始まると、Aさんの悪い予感は的中した。工務店の監督が示した工程表にしたがって現場に行った最初の日、配線作業やコンセントボックスの設置作業を実施する手はずだったのに、軸組みしか立ち上がっていない。壁や床の下地合板はまだ未施工で、Aさんが作業できる段階ではなかった。

 Aさんはその日の作業を諦めるしかなかった。Aさんはもともと初日から作業を一気に進めるタイプで、その日も応援の職方まで依頼していたが、そうした費用まで完全に無駄になってしまった。現場に元請け会社の監督は不在で、Aさん同様に外注先の大工職が居合わせたので話を聞いてみると、次のように打ち明けられた。

 「うちもこれまでも何件か工事を請け負ったんだが、あの監督は経験不足でね。複数の工種がオーバーラップするタイミングとか、工程の段取りをよく理解できていないようなんだ。工程表だって、いつも“絵に描いた餅”みたいなものさ」。大工職はこう話して、苦笑した。

 Aさんは、自分の作業分では極力無駄が生じない段取りで見積もりを作成していたので、「まずいことになった」と頭を抱えた。初日の現場入り以降、手戻りを少しでもなくすために、作業の予定がなくても現場に頻繁に顔を出し、監督に進捗を確認。しかし監督は複数の現場を掛け持ちしているためか、不在がちで数回に1回程度しか会えず、携帯電話もなかなかつながらない。Aさんはやむなく、先述の大工職ほか他工種の職方とも直接連絡を取り合って、自分の作業タイミングを計るようにした。

 こうした経緯で現場に出入りする職方たちと顔なじみになってくると、問題の監督が担当する現場ではいずれも、ほとんどの職方がAさんと同じやり方で工程を確認していることが分かった。「無駄に出向かなければならないことが多いので、あの人の現場を受ける際にうちは少し高めに見積もりを出してるよ」と話す専門工事会社の職方もいた。

 1人で事業を手掛けているAさんにとって、支払い条件がいかによくても、手離れが悪い仕事は避けたいのが本音。「この工務店は元請け受注をコンスタントに確保しているから、うちへの発注もそれなりに見込めそうだが、この現場限りで付き合いはごめんだ」。最終的にAさんは、こう心に決めた。