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キー入力のやり直しが効く磁気テープ

 タイプライターからテレタイプに連なる流れとは別に、コンピュータ前史に統計学者のHerman Hollerith博士によって発明された穿孔カードによるデータ処理システム、いわゆるパンチカード・システム(PCS:Punch Card System)がキーボードの発展を促した*1。PCSはカードをソート/分類することでデータの処理を行うことができた。1880年代頃から、数百万人分の統計データを集計する国勢調査などに使われていたシステムである。

*1 カードに開けた穴を使って機械的に分類するか,電子データとして分類するかという違いはあるものの、コンピュータの用途は高度なタビュレーティング・マシン(Tabulate:作表する)であったと言える。

 初期のPCSはキーボードを備えたタイプライター型ではなく、ボタンを文字コードに合わせてセットしてから穴開けするものだったらしい。PCSは機械が処理できる形のデータを大量に生成できる点が特徴だ。コンピュータの発明と時を同じくして、PCSのカード(パンチカード)はコンピュータのプログラムおよびデータの入力装置として使われることになる*2

*2  後にHollerithが興した米Tabulating Machineは競合2社と合併し,米Computing Tabulating Recordingとなる。今日の米IBMである。

 PCSではカードがデータ入力用の媒体であり、出力結果を示す媒体でもあった。そのためカードそのものが重要な役割を果たしていた。ところがコンピュータでは、読み取ったデータを磁気テープに記録するようになったためカードは不要になった。そこでCRTにキーボードがついたフルスクリーン端末が使われるようになった。カードを穿孔する際の下書きとなる型紙(コーディング・シート)の外見をCRT上に再現した形である。物理的なカードでは一度穴開けに失敗すると、新たに別のカードに打ち直さなければならない。フルスクリーン端末以前のカード穿孔機には、打ち直しの労力を軽減するためにカードを複写する「DUP(duplicate)」というキーがついていたほどだ。

1949年に米IBMが出荷したパンチカード・システム「IBM 026 Printing Card Punch」のキー配列
1949年に米IBMが出荷したパンチカード・システム「IBM 026 Printing Card Punch」のキー配列
記録媒体であるパンチカードは一度穴を開けてしまうとやり直しが効かない。このためDELキーはない。その代わりにカードを複写するための「DUP」キーがある。
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これに対しCRTによる入力作業では、CRTに表示された画面を自由に移動して修正が可能になった。入力位置を示すカーソルを移動するため追加されたのが、矢印状の「アローキー」である*3

*3  矢印に従ってカーソルを動かすので「カーソルキー」と呼ばれることが多い。ただここでは矢印により方向を示すキーという意味なので、「アローキー」という表現を使っている(本誌)。