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制御キーを省いてコストを抑えるパソコン

 もう一つのキーボードの歴史に多大な影響を及ぼしたのがパソコンである。ホビー用途として産声を上げたパソコンは、莫大な開発リソースを投じるメインフレームやミニコンに比べればおもちゃのようなものだった。キーボード部分は中古のテレタイプや端末を入出力装置として流用していた。また、キーボードと本体が一体となったパソコンは、パソコンのCPUが押されたキーの判別(キースキャン)をしていた。当時の貧弱なCPUでは、キースキャンにCPUパワーを割く余裕は少ない。ハードウェアのコスト抑制と部品の入手性の確保といった制約から、インテリジェント端末と比べてキーの数が少ないのが特徴だ。制御コードについては、テレタイプ時代からのCtrlキーと英字キーの組み合わせを主に使用していた。パソコン黎明期の代表機である米Appleの「AppleII」のキーボードにそれを見ることができる。

米Appleが1977年に出荷した「Apple II」のキーボード
米Appleが1977年に出荷した「Apple II」のキーボード
マシンパワーとコストの制約から、制御キーの数が必要最小限に抑えられている。
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 IBM PC AT以前のパソコンのキーボードを見ると、アローキーはそれほど重要視されていなかったようだ。例えば当時の定番ワープロソフト「WordStar」は、左へのカーソル移動にCtrl+S、同じく右がCtrl+D、上がCtrl+Eで下がCtrl+Xというキーの組み合わせによってカーソルを移動する仕様になっていた。菱形に並んだ四つのキーを利用することから、ダイアモンド・カーソルとも呼ぶキー・コンビネーションである。

 IBM PC ATがインテリジェント端末を発展させたものであるのに対し、Macintoshに代表される非IBM PCのパソコンは、PC本体と端末の組み合わせを一体化したものと考えるとキーボードの違いが明確になると思う。IBM PC ATでは、文字の入力と制御用のコマンドの入力のキーを明確に分けている。しかし、Macintoshを含むIBM PC以前のパソコンでは、端末のルーツである印刷電信機の仕様を色濃く残している。その仕様とは、Ctrlキーと文字キーの組み合わせによる制御コードの送信である。異論があるとは思うが、IBM PC ATのCtrlキーがShiftキーの下という小指で打鍵しにくい場所にあるのは、Ctrlキーをあまり重要視していなかったからではないだろうか。

 パソコンのキーボードに二つの操作体系があるなか、市場を席巻しデファクト・スタンダードとなったのはIBM PC ATとその互換機であった。当然それらのパソコンに付属するキーボードも、IBM PC ATのキー配列を受け継ぐことになった。Windowsアプリケーションにおいて、ファンクション・キーによる制御とCtrlキーによる制御が混在するのは、Ctrlキーと文字キーの組み合わせを多用する端末と、「Page Up」や「End」といった制御キーを多用するインテリジェント端末に由来する操作体系が混在しているためだろう。