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日経バイトの2004年4月号「技術の神髄」に掲載した記事を再録しました。記事の内容や執筆者のプロフィールは当時のままです。

 かつては日本語に特化した配列や信頼性の高い機構を採用するなど、さまざまな製品が世を賑わせた。パソコンが日用品となった今、その付属キーボードの多くはコスト削減を最優先して配列や形状、構造に工夫がない。しかし人とパソコンをつなぐ役割の大切さは今も昔も同じ。もっと高い品質の製品が登場すべきではないか。

 現在、パソコンのキーボードは「106/109A」配列が圧倒的だ。パソコンの解説書やタイピング教本を取ってみても、そのほとんどが「106/109A」キーボードを前提にしている。

 キーボードの機構も同様だ。詳細は後述するが、スイッチはシート状の「メンブレン」、キーを保持する土台はプラスチックの一体成形と相場が決まっている。もはやパソコンは日用品であり、キーボードはその一部にすぎないのでコストを重視した結果だろう。

 しかしキーボードはユーザーが一番使うデバイスの一つである。もっと「使い勝手」に目を向けてもよいのではないか。キーボードの使い勝手を左右するのは、キーの配列および構造と、それを支えるハードウェア機構だ。

人間に合わせてキーを並べる

 今のようにキーボードが画一化されるまで、日本語入力の効率化を図った文字配列や、自然な姿勢でキーを打鍵できる形状を模索した「エルゴノミクス・キーボード」が何度となく提案されてきた。しかし登場時こそパソコンの使い勝手を高める工夫として注目を浴びたが、ごく一部でしか使われていない。

 日本語に適したキー配列の日本語キーボードで今でも根強い人気があるものと言えば、富士通の「親指シフト」キーボードであろう。

「親指シフト」キーボードの配列
「親指シフト」キーボードの配列
配列は富士通のワード・プロセッサ「OASYS 100F」のもの。
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 親指シフトの特徴は、通常スペース・バーがある位置にある「親指シフト」キー。このキーと文字キーを同時打鍵して日本語入力の効率を高める。親指シフトキーと併用することにより、濁音を含むかなを一打鍵で入力できる。親指シフトキーによって切り替えるので、かな文字を3段に収められる。代わりに一つのキーに二つのかな文字が配置されている。なお、アルファベットの配列はQWERTYである。

 親指シフト・キーボードは当初富士通のメインフレーム端末用に開発された。その後ワード・プロセッサ「OASYS」のキーボードとして普及した。親指シフト・キーボードの市場を支えている層は、当時絶大な人気を誇ったOASYSシリーズで親指シフト・キーボードに触れたユーザーが中心である。その後親指シフトをベースとした「NICOLA」という仕様も制定されている。半濁音の追加や制御キーの配列をパソコンに沿ったものに変更するなど、ワープロを出自とする親指シフト・キーボードより汎用化してある。

 現在市販されているものとしてはほかに、ナラコムの奈良總一郎氏が考案した「ナラコード」配列のキーボードがある。

奈良總一郎氏が考案した「ナラコード」配列
奈良總一郎氏が考案した「ナラコード」配列
使用頻度の高い「きょう」「しょう」など拗音をシフトキーとの同時打鍵に割り当てている。かなの配列は50音表順が基本。
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 奈良氏は日本語に促音や拗音を伴う単語が多いという特徴に着目。拗音、促音混じりの言葉をより少ないキーストロークで入力できるようにした。具体的には、促音の「っ」を中央最上段に配置し、「きょう」、「しょう」、「ぎょ」などの拗音付の文字を1キーで打鍵できるように工夫してある。これによって例えば、「とうきょう」は、「とう-きょう」の2打鍵で入力できる。これがJISキーボードによるかな入力では「と-う-き-ょ-う」の5打鍵、ローマ字入力にいたっては「T-O-U-K-Y-O-U」と7打鍵要するのと比べると圧倒的に少ない。覚えやすく目で追いやすい50音表順に配置しているのも特徴だ。