「国内回帰といっても、頼るべき町工場が廃業している」「困ったからと言って頼りにされ、コスト増分は負担しろとは虫が良すぎる」――。日経クロステック/日経ものづくりが2020年3月に実施したアンケート調査の自由記述からは、現場からの不満の声が聞こえる。2020年3月に世界保健機関(WHO)が「パンデミック」を宣言した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)」。危機は進行中で状況は刻々と変化しているが、この連載リポートでは「新型コロナ危機」に直面した製造業のこれまでの2カ月をまとめている。今回はアンケートの自由記述に寄せられた中から特に興味深い回答について電子メールなどで追加取材。製造業の最前線に立つ経営者や研究・開発者、調達・購買担当者などの生の声を紹介する。
「未曽有(みぞう)」とはこのことを言うのだろう。新型コロナ流行の影響は、震源地だった中国から欧州へ、そして太平洋を越えて今や米国が次なる震源地と化しつつある(2020年3月27日時点)。感染者個人はもちろんのこと、世界が新型コロナに罹患(りかん)したと言っていい。
「中国から部品を入手できない」
製造業界もそのあおりを受け、中国や欧州を中心に大手自動車メーカーなどの工場が相次いで生産停止。3月には日本国内でも、トヨタ自動車やホンダなどの一部の工場が生産停止に追い込まれている。
日経ものづくりが2020年3月10~13日に実施したアンケート調査の結果からは、新型コロナ流行の影響が日本国内の生産拠点にも影響を与え始めていた状況が垣間見える。「新型コロナウイルス感染症の流行によって、日本国内の生産拠点でどのような影響が出ているか」という質問に対して、「中国から直接調達する部品が手に入りにくくなっている」「中国から間接的に調達する部品が手に入りにくくなっている」という回答が5割弱に上った。
「その他」の回答者の自由記述からは、「中国への出荷ができない」「組み立てメーカーへの中国系部品がショートし当社も納入に影響が出ている」「部品入手困難」など、モノの流れが遅延したり、止まったりしている様子がうかがえる。
「モノ」以外に「情報」も途絶えているようだ。「海外工場との連絡が取れない」「詳細仕様を調整できないので生産計画が遅れている」といった「情報遮断」の弊害を訴える回答者も目立った。
こうした状況に鑑みて生産拠点の中国依存を見直し、国内回帰の必要性を訴える声は多い。しかし、海外に生産拠点を移したツケが回り、技術力を持つ町工場が廃業したり、作業員が引退したりして、「回帰しようにも国内にその基盤がない」と嘆く向きもある。
「社員食堂で相席禁止」
新型コロナの影響は、従業員の生活にまで及んでいる。工場で働く従業員から感染者が出た結果、工場全体が生産停止に追い込まれる事態を恐れる声も自由記述にはあった。従業員全員が「濃厚接触者」として自宅待機を余儀なくされる可能性があるからだ。こうした事態を避けるため、社員食堂の利用時間をずらしたり、相席を禁止したりする動きもあるようだ。
一方で、従業員の生活まで踏み込んだBCP(事業継続計画)の必要性を説く声もある。「人」あっての工場であり、生産というわけだ。