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 折り紙のように折れる金網「おりあみ(ORIAMI)」をご存じだろうか。テレビなどでも度々紹介されたので見たことがある方も多いかもしれない。太さ0.05mmの極細線の丹銅(亜鉛と銅の合金)を平織りにしたもので、しなやかな触感ながら紙のように折り曲げて形を保持できる。このおりあみを開発したのが、創業98年の金網専業メーカー「石川金網」(東京・荒川)だ。今回は3代目の石川幸男代表取締役に話を伺う機会を得た。

図1 「おりあみ(ORIAMI)」で折った折り鶴
図1 「おりあみ(ORIAMI)」で折った折り鶴
折り紙で作れるものならORIAMIでほとんど作れるという。(写真:日経クロステック)
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日経クロステック関連記事 「金属製の折り鶴、その素材とは?」

 1922年創業の同社は、日用品から自動車部品用・産業機械用まで幅広い用途の金網を製造・販売してきた。自社開発の金網加工機械と協力工場のネットワークを活用した大量生産が強みだ。ORIAMIの製品化によりイノベーティブな企業として金網業界でもよく知られている。

図2:石川金網の石川幸男代表取締役(中央)
図2:石川金網の石川幸男代表取締役(中央)
全国の協力工場のネットワークを活用して金網を生産する他、荒川区の本社に隣接する工場でも創業以来生産を続けている。(写真:ローランド・ベルガー)
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既存事業が壊滅状態に

 いまや石川金網のシンボルとも言える「ORIAMI」。その誕生のきっかけは、2008年のリーマン・ショックだった。「主力だった自動車産業向けの金網が壊滅状態になり、多角化の必要性から自社製品を開発し始めた」と石川社長は振り返る。従来の顧客は頼れないし、かといって社員を休ませるわけにもいかない。追い詰められて自社製品の開発を始めたという。

 縮小していく本業を補おうと各方面への取り組みを進めていく中、工業用フィルターの網の目を細かくし、加工精度の向上を追求していた職人がふと思いついた。「ここまで軟らかい金網なら折り紙が折れるのでは」と。2013年に練習がてら作った作品を「荒川区産業展」に出展すると、これが注目され翌年の同産業展では体験会をしてほしいとの声が出るほど人気となった。

 しかし、実際に多くの人に折ってもらうと、うまく折れる人と折れない人がいることに気づいたという。紙とは材質が異なるため、折り紙とは違ったコツが必要なのだ。壁に突き当たっていた頃、前出の職人が、ホビーショーでバラを折っていた折り紙アーティストの宮本眞理子氏に作品を紹介した。すると「金網を折り紙の専門家としてぜひ折ってみたい」と意気投合。日本折紙協会の講師も務める宮本氏が、同協会の理事や会員の折り紙研究家を巻き込んで、製品化を後押ししてくれることになった。

 金網の特性や目の細かさ、素材感を折り紙の専門家と確認しながら議論を重ね、一般の人でも折りやすい仕様を検討。一般消費者向け商品として、手などを切らないような剛性にするなど安全性にも配慮した。こうして2015年12月、ついに“布のようにしなやかだが、紙のようにしっかり折れる”がコンセプトの「ORIAMI」の発売にこぎ着けた。商品には日本折紙協会監修のパッケージに折り方の説明書と安全のしおりを同封。小学生高学年以上をターゲットに販売したところ、同協会の後押しもあって、折り紙業界で異例のヒット商品となった。なにより作品の保持力の高さが受けたという。

 国際家具見本市「ミラノサローネ」の出展を機に、イタリアの折り紙協会もORIAMIを絶賛。イタリア人の折り紙アーティストの後押しもあり、イタリアでもすっかり有名になった。ミラノサローネにもここ3年連続で出展している。

図3:社員が「ORIAMI」で折り上げた「悪魔」
図3:社員が「ORIAMI」で折り上げた「悪魔」
折り紙「悪魔」は、折り紙作家の前川 淳氏が生み出した同氏のデビュー作。1980年に発表された同作は折り紙業界で話題となった。ORIAMIはこうした複雑な作品も折れる。余談だが、筆者(川野)にとって前川氏の「悪魔」は子供の頃に何度も挑戦した難易度の高い思い出の作品である。(写真:ローランド・ベルガー)
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