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 「曲面印刷」――。多くの読者にとってあまりなじみがない技術かもしれない。しかし実は、曲面印刷技術を用いた製品は我々の身近に数多く存在する。最も身近でポピュラーな曲面印刷製品といえばスマートフォンのケースだ。スマホのケースは精密機器保護の役割はもちろんのこと、持ち主の個性を表現するためのツールにもなっている。この個性、つまりスマホケースの持つ多様性は、曲面印刷技術によって実現されているのだ。この他、自動車の内装部品やオフィスデスクなどの家具類にある木目調のデザインなどにおいても、個性を高めるべく一部製品に曲面印刷技術が利用されている。

図1 スマートフォンケースへの曲面印刷
図1 スマートフォンケースへの曲面印刷
様々な曲面の上に個性豊かな印刷を施すことが可能な同社の曲面印刷技術。(出所:秀峰)
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 今回紹介する秀峰(福井市)の曲面印刷技術は、他社のそれと比べて非常に高精細なのが特徴だ。それにより製品に圧倒的に独創性にあふれた個性を与えられる。その技術の高さが評価され2007年には「ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞(金賞)」を受賞している。それだけではない。県の「科学技術奨励賞」の受賞(2002年)や、近畿経済産業局「新連携」の支援事業認定(2005年)、元気なモノづくり中小企業300社の認定(2007年)など、数々の実績を持つ。

 では、同社が誇る高精細な曲面印刷技術はどのようにして生まれたのか。筆者らは同社会長の村岡貢治氏と代表取締役社長である村岡右己氏に話を聞いた。

図2 村岡貢治会長(右)と村岡右己社長(左)
図2 村岡貢治会長(右)と村岡右己社長(左)
お二人は筆者らを笑顔で出迎えてくれた。会議室の壁面は数多くの表彰状や特許証で埋め尽くされている。(出所:ローランド・ベルガー)

加飾フィルムを使わないマスカスタマイゼーション向きの加飾

 秀峰の曲面印刷技術は、加飾印刷技術の1種である。加飾印刷技術にはフィルムインサート成型やインモールド転写の他、基材に加飾フィルムを貼り付けるTOM成型、水圧転写などがある。中でも最もよく利用されている技術がフィルムインサート成型であり、市場の約45%を占める。いずれの方法も生産性やデザインの自由度などでそれぞれ異なる特徴を持つものの、加飾フィルムを使う技術という点は共通だ。前工程で加飾フィルムに図柄を印刷しておき、後工程で対象物へ転写する。これに対して秀峰の加飾印刷は加飾フィルムを使わず対象物に直接印刷する。これがどのような違いを生むのか。

図3 各種曲面加飾技術との比較
図3 各種曲面加飾技術との比較
他の曲面印刷技術は加飾フィルムに印刷した後、それを製品へ転写するため工程が多くなる。(出所:田口 紀成)
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 加飾フィルムを使う場合、フィルムへの印刷工程と対象物への加飾工程が連続的ではない。あらかじめ必要な分を加飾フィルムに印刷しておき、後でまとめて加飾加工して生産性を高めている。従って大量生産には向くが、加飾フィルムへの印刷と対象物への加飾工程に分かれるため少量生産には向かない加工方法といえる。

 これに対して同社の曲面印刷技術は対象物に直接印刷するため1つずつ加飾できる。小ロット生産に適する上、インクも無駄になりにくい。村岡社長は「小ロットでも速く、安く、環境に優しい印刷技術だ」と自信をにじませる。まさにインダストリー4.0が求めるマスカスタマイゼーションを担うにふさわしい次世代のものづくり技術といえる。