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 今回は、中央自動車道の伊那インターチェンジ(IC)から10km、クルマで15分のスワニー(長野県伊那市)に伺った。ただし、新型コロナウイルスの影響でリアルではない。今回の工場見学と対談は、全て同社の橋爪良博社長が自らカメラなどの機材を操るリモート環境で行うという本連載初の取り組みだ(図1)。

図1 オンラインによる工場訪問取材
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図1 オンラインによる工場訪問取材
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図1 オンラインによる工場訪問取材
左がスワニー社長の橋爪氏。(出所:オンライン取材から)

 最初に「Zoom」の会議室に登場した橋爪氏は、挨拶もそこそこに「工場に行きましょう。一連の流れを全てお見せします」と席を立つと、カメラを手にして隣の社屋に向かうべく外に出た。そこで我々の画面に映し出されたのは、まぶしい青空と山並みだった(図2)。コロナ禍もあり、筆者らは思わず「おー」と声を上げ、こんな環境で働けたらと羨ましさを感じた。

図2 スワニー社屋へ向かう道から眺める青い空と山々
図2 スワニー社屋へ向かう道から眺める青い空と山々
(出所:スワニー)
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日本のスタートアップを元気にしたい

 工場建屋に向かいながら橋爪氏は、「僕は確かに3代目を継いでやっていますが、継いだ当初は従業員ゼロ、借金だらけで仕事もなかった」と振り返った。

 もともと地方の町工場だったスワニーは、橋爪氏が社長就任後、製品・部品の設計から3Dモデリング、3Dプリンターを使った試作や少量生産の受託など、業容を拡大してきた。今では年間2万個といった受注がくるまでになっている。特に近年は、後述の「デジタルモールド」技術を武器に、スタートアップの製品化支援に力を入れており、その技術と活動は多方面から注目を集めている。

 ただし、「量産工場の拡張にはあまり興味がない」(同氏)。それよりも、「スタートアップのように(ものづくりがしたくても)挑戦できない環境にいる人たち、カタチにできない人たちの力になるようなことをしたい」というのがスワニーの目指す方向だ。

 ものづくりを標榜するスタートアップはあまたあるが、事業として成立させるまでには大きなハードルが横たわる。製品や事業のアイデアはあるものの、製造に関する知見・ノウハウがないために、まとまった量の製品を造れないといういわゆる「量産化の壁」である。

 実際、生産設備が欲しいというスタートアップをよく目にするが、設備を導入したものの受注がこなくて2、3カ月も動かさずじまいというケースをしばしば見かける。中には特許もろくに調べず、商標も取らずにアイデアをオープンにしてしまう場合もある。そのまま製品化したら、間違いなくその人の夢が壊れてしまうであろう危険な橋を渡っている起業家も多い。

 要は優れたアイデアと熱い思いを持っているが、企画止まりで次の一歩が踏み出せていないスタートアップも少なくないのだ。

 スワニーの技術や設備、人材を駆使すれば、そういうスタートアップの手助けをできるはず――。そうした思いから橋爪氏は、経済産業省が進める「Startup Factory構築事業」*1にも応募。「試作や量産といったものづくりの知見がなくて困っているスタートアップは本当に多い。そうした企業とどんどんつながって相談に乗るのが仕事」(同氏)と、製品化支援事業に力を入れている。

*1 スタートアップが陥りがちな「量産化の壁」を乗り越えるための拠点づくりを推進する事業。