全3348文字

 「とにかくユニークな企業です。アフリカでソーラー事業を仕掛けているんです。ぜひ訪問してみてください!」

 知り合いの特許庁審査官からの強い薦めを受け、筆者らは琵琶湖のほとりにある企業を訪ねた。社名通りプラスチック成形事業を営む辻プラスチック(滋賀県東近江市)だ。社長の辻清嗣氏と取締役の辻喜勝氏のご兄弟が筆者らを出迎えてくれた。

図:辻プラスチックの辻清嗣社長(右)と辻喜勝取締役(左)
図:辻プラスチックの辻清嗣社長(右)と辻喜勝取締役(左)
(出所:ローランド・ベルガー)
[画像のクリックで拡大表示]

プラスチックなら何でもやります

 「社名通りのプラスチック屋です。40tから460tまで、大小25台の成形機があります。数gから2kgくらいまで、プラスチック製品だったら何でも成形しますよ」(辻社長)。

 同社の創業は1968年。資本金は1000万円で現在の従業員は40人ほど。もともとは旧立石電機(現オムロン)のサプライヤーとして、熱硬化性プラスチックの端子台製作を足架かりに創業した。その後すぐに熱可塑性プラスチックの成形に対応。自動車部品の成形などを長く手掛けてきたが、最近は産業機械向けの仕事が増えているという。

 社内に金型工場も持っており、メンテナンスもスピーディーにできる体制を整えている。品質向上のため、近年はCAEにも投資。成形時の充てん・保圧・金型冷却をシミュレーションし、収縮と反りなどの予測も行って金型設計に反映し品質向上を実現している。自動化に向けた取り組みも始めており、6軸の産業用ロボットを使って検証を進めているところだ。

図:ロボットによる自動化
図:ロボットによる自動化
カメラの画像からランナーを判断して、ロボットで自動的に切り取るシステムを検証中。将来的にはAIの活用もしたいと意欲的だ。(出所:ローランド・ベルガー)
[画像のクリックで拡大表示]

自社製品として「光る道路鋲」を開発

 と、ここまでが訪問して辻社長が説明してくれた本業の話。プラスチック成形事業は至って順調に伸びているようだ。しかし、筆者らが期待していた「アフリカ」や「ソーラー」といったキーワードがまだ出てこない。いぶかしんでいると、それを察したかのように辻社長が笑みを浮かべながら続けた。「私たちも自社製品を造りたかったんです」。その自社製品こそが、アフリカで注目を浴びているという光る道路鋲(どうろびょう)だ。大阪電気通信大学と共同開発したもので、蓄電デバイスとして電気2重層キャパシター(以下、キャパシター)を用いているのが特徴だ*1

*1 大阪電気通信大学教授の竹田晴見氏(故人)の特許を基に開発した。

 光る道路鋲(自発光式道路鋲)は、日中に太陽電池で蓄電し、夜間にその電力で発光する。一般にはリチウムイオン2次電池(LIB)のようなバッテリーを搭載しているが、LIBは充放電サイクルが短く数年しか持たず、バッテリー交換のメンテナンスが課題だった。それを解決したのがキャパシターを用いた道路鋲だ。化学反応を伴わないキャパシターはメンテナンスフリーで10年以上使える。そこにLEDの光を遠方まで届かせるための透明かつ肉厚の導光板を成形できる辻プラスチックの技術を組み合わせて製品化した。

図:辻プラスチックの道路鋲製品の1つ
図:辻プラスチックの道路鋲製品の1つ
一度敷設すれば10年は使えるメンテナンスフリーが特徴。埋めたその日の夜から使える。色や大きさの違いの他、交差点用、センターライン用、カーブ用、などさまざまな種類を取りそろえている。(出所:辻プラスチック)
[画像のクリックで拡大表示]

 「キャパシターで本当にLEDを発光させられるの?」。今では、キャパシターを使った自発光式道路鋲は他社からも製品化されているが、当初は専門家にもなかなか信じてもらえなかったという。とにかく試作品を見てもらい、共同開発した大阪電気通信大学教授の竹田晴見氏(故人)にも説明に加勢してもらうなどして市場からの信頼を積み重ねていった。