秘めた実力を持つ中小企業にスポットライトを当て、事業戦略や経営者の考えを探る本連載。今回は番外編として、ミスミグループ本社が提供する加工部品調達プラットフォーム「meviy」を軸に、デジタル技術とものづくり企業の今後を考察してもらった。(日経クロステック編集部)
新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)拡大によって、私たちはそれまでのビジネスやコミュニケーションをいかにデジタル化できていなかったかをまざまざと思い知らされた。
新型コロナの拡大は、ものづくりの環境に大きな変化をもたらした。経済産業省は2020年5月に発表した「ものづくり白書」において、「米中貿易摩擦に代表される地政学的リスクの高まりや、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済の不確実性が高まる」と指摘。これまでに構築してきたサプライチェーンが分断されるリスクを挙げている。加えて、こうした環境変化に柔軟に対応するために人工知能(AI)をはじめとするデジタル化が有効であるとし、環境の変化に応じて組織やルールを柔軟に変えられる強い対応力「ダイナミックケイパビリティー」の必要性を強調している。
ダイナミックケイパビリティーは、経営戦略論上では以前から唱えられている概念だが、それを実現している企業は少ない。そもそも具体的にどのようなものなのだろうか。今回はものづくり企業のダイナミックケイパビリティーの可能性を、ミスミグループ本社(以下ミスミ)の部品調達プラットフォーム「meviy(メヴィー)」を通じて論じてみたい。
製造可否チェックから見積もりまで即実行
meviyはミスミが2016年に提供を開始した加工部品の調達プラットフォームである。アップロードされた3D-CADデータの製造可否チェックと見積もりを即時実行でき、発注すれば最短納期で届けてくれるオンラインサービスだ。
3Dプリンター〔付加製造(AM:Additive Manufacturing)装置〕が一般化したこともあり、近年では同様の部品調達プラットフォームが幾つも登場しているが、meviyには以下のような特徴がある。
[1]3D-CADデータをアップロード後、μm単位で公差を指定できる。はめあい公差指示や穴ピッチ公差指示など、精密な装置に必要な高精度な公差指示に対応している。
[2]数秒で見積もりが完了し、数量や材質、公差を変更するたびにすぐに見積もりが更新される。設計者は予算に合うように材質や公差をその場で調整できる。
[3]見積もり完了後、対象の部品にミスミの型番が割り当てられ、次回以降は型番を指定するだけで発注できる。設計部門と調達部門が別れている組織において、調達担当者が部品を型番のみで発注できる環境を提供している。
[4]最短即日発送という短納期の上、納期を提示してくれるため部品調達における納期不安がなく、生産計画を立てやすい。
これらの特徴は、ものづくり現場のニーズを反映、または困りごとを解消するだけでなく、meviyユーザー企業のサプライチェーンの一翼を担う部品調達プラットフォームとして、品質・納期について製造責任を果たす機能といえる。後工程に位置するユーザー企業が安心して利用できるサービスとなっている。
新型コロナの感染拡大はものづくり企業の経営状態にも暗い影を落としている。経済損失は40兆円(GDPの約7%)との試算もある*1。このような経済環境の中、ミスミは20年8月にある施策を打ち出した。中小のものづくり企業支援策として、中小企業合計100法人を対象に、meviyの商品を1法人当たり10万円まで無償で提供するというものだ。
企業におけるデジタル化による労働生産性の向上は喫緊の課題である。meviyによって付加価値の低い部品製造をアウトソースし、少しでも人手不足を解消して付加価値の高い業務への集中を促す狙いがある。