全4126文字

 アルミニウム(Al)合金の切削加工を主ななりわいとする1980年創業のHILLTOP(京都府宇治市)。単品の試作品製造を中心に1カ月で4000種類以上の加工を手掛ける。工場では11台の加工機が稼働しているが、現場には機械を操作する職人がほとんどいない。全ての機械が無人で動作するシステムを導入しているからだ。

 「当社に職人はもう必要ありません」と言い切るのは、同社常務取締役の山本勇輝氏だ。同氏は「これまでの職人のように1人が占有して抱え込む技術はもう必要ないから」と言う。しかし、これまで競争力だったはずのそうした技術が本当に不要だとはにわかには信じられない。

図1:HILLTOP本社全景
図1:HILLTOP本社全景
(出所:HILLTOP)
[画像のクリックで拡大表示]
図2:常務取締役の山本勇輝氏
図2:常務取締役の山本勇輝氏
新型コロナ禍でパーティション越しに取材対応してくれた。(出所:西野聡子)
[画像のクリックで拡大表示]
図3:HILLTOP工場内の風景
図3:HILLTOP工場内の風景
全ての機械が無人で動作するシステムを導入しており機械を操作する職人はほとんどいない。(出所:HILLTOP)
[画像のクリックで拡大表示]

加工面を選べばNCプログラム生成から加工まで一気通貫

 生産現場として紹介されたのは、しゃれた雰囲気のオフィスフロア。技術者は皆私服でCAD/CAMに向かい、加工プログラムを作成している。同社が開発した「HILLTOP System」を使えば、図面上でどの部位に、どの刃物を使うかを画面上でクリックするだけで最適な加工方法が自動的に選択され加工プログラムが完成する。後はそれを工場の工作機械に送信して加工を自動化する。これが同社自慢のシステムだ。

 このシステムの特徴は「職人技を数値化したデータ」。特定の加工を行うためにどのような工具と条件が最適かを10万エントリー以上あるデータベースとして社内で共有している。このデータベースは過去30年間蓄積してきた「匠(たくみ)の技」の集大成だという。作成した加工プログラムは必ずシミュレーションを行い、入念にデバッグをしてから実加工を行うため、手戻りも少ない。

図4:HILLTOPオフィス内
図4:HILLTOPオフィス内
(出所:HILLTOP)
[画像のクリックで拡大表示]
図5:HILLTOP Systemの機能と構成
[画像のクリックで拡大表示]
図5:HILLTOP Systemの機能と構成
[画像のクリックで拡大表示]
図5:HILLTOP Systemの機能と構成
(出所:HILLTOP)

 デジタルツールを駆使し、職人技をデータ化することで工場の24時間無人稼働を実現した。「私たちの一番の武器はスピードです。一般的には2、 3週間かかる仕事をHILLTOPなら5日でできます。図面通りの加工はできて当たり前。それにスピードなどの価値をサービスとして付加していくのが大切なんです」と山本氏は自信をのぞかせる。

 そうした高付加価値化の策として注力しているのが装置開発の仕事。きっかけは10年ほど前に受注した錠剤の外観検査機のOEM製作だ。省スペースな上、ボタン1つで検査対象を変更できるのが特徴の装置だが、当初はその装置に使う部品の加工を依頼されただけだった。ところが、部品の品質と納期を客から認められると、「次は板金もやってほしい」「組み立てもやってほしい」と依頼内容がどんどん拡大。ついには装置の構想設計から生産まで全てをHILLTOPが担うまでになった。