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 「マーケティングとイノベーションの実践と学習の場であり、我々にこれから求められるものが何か、今後どうしていくのかを自分たちで考えて実践していく組織」――。京都の中小ものづくり企業から成る京都試作ネット(以下、試作ネット)の代表理事を務める鈴木滋朗〔最上インクス(京都市)代表取締役社長〕氏は、同ネットの活動の狙いをこう話す。

京都試作ネット代表理事 鈴木滋朗氏
京都試作ネット代表理事 鈴木滋朗氏
(出所:コアコンセプト・テクノロジー)
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始まりは2001年の祇園祭の日

 試作ネットは、京都府内の中小企業の社長らが持っていた「日本から製造業がなくなる」という危機感と、「開発者に期待を超える試作品をどこよりも速く提供する」という志を元に始まった。

 売り上げ増を目指すのではなく、“京都を試作の一大集積地にしよう”との思いから立ち上げたという。今から20年前の2001年の祇園祭の日のことだ。そこにも京都らしいこだわりがある。

 「ネット」という名前から誤解されやすいが、共同受注を主目的とした組織ではない。共同受注の機能もあるが、あくまで主眼は「先の読めない未来に対し、みんなでお金を出し、汗をかき、具体的な活動を通じて『学習』するための組織」(鈴木氏)だ。イノベーションを実践する中で学ぶことを目的とした組織なのである。

 試作というプロセスを学びの場として選んだのは、新たな作品を生み出す仕事に携わりたかったから。そこで京都を試作の一大集積地にすべく、地元の銀行や大学、行政などを巻き込んで、機会も情報も集まってくるコミュニティーを構築してきた。これからどのように産業育成していくかを、産学官と一緒になって考えてくれる組織として、ありとあらゆる組織・団体とタッグを組み、様々な取り組みを展開している。

 実は試作ネットの活動の根底には、ピーター・ドラッカーの思想がある。ドラッカーが説く「事業の目的」は「顧客の創造」である。従って、試作ネットの事業の成果は、「40社がいかに顧客の創造を実現できたか」にある。それを参加企業の社長自らが集まって議論する。

 鈴木氏は、「試作とは、何かしら世の中を変えたいと思ってするもの。従って、我々が成果を生み出せたとしたら、それは誰かが予測できるような成功ではなく、誰も予期せぬ成功になるはず」と言う。実際、活動目的である「顧客の創造」を意識していると、顧客の何気ない一言がきっかけで、自分たちが思っていたのとは違う新しい事業につながるケースが多いという。どんな仕組みを整えれば、そうした取り組みを増やせるのか。その手立てを見つけるのが今の鈴木氏らの挑戦だ。

京都試作ネットでは、「『予期せぬ成功』は『瓢箪(ひょうたん)から駒』である」と考えている
京都試作ネットでは、「『予期せぬ成功』は『瓢箪(ひょうたん)から駒』である」と考えている
(出所:京都試作ネット)

 現状に甘んじていては成長しない。参加企業の枠組みを超えた情報を集め、新たな試作を次々と手掛けて自分たちの守備範囲を広げ、産業への貢献領域を拡大していく。それこそが試作ネットの活動の枠組みである。