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 超精密加工で世界一の加工精度を誇る工作機械メーカーが岐阜県関市にある。知る人ぞ知るナガセインテグレックス(以下ナガセ)だ。創意工夫をモットーに、独自のアイデアを製品に詰め込み、世界で初めて「多面拘束非接触油静圧」の案内面を全軸に採用した超精密研削盤や超精密ベッド研削盤の他、非球面研削盤やナノマシンなど画期的な超精密加工機を世に送り出している。

 超精密加工とはサブミクロンの形状精度とナノオーダーの面粗さを同時に実現する究極の加工である。同社のサブナノマシンは加工点において0.3nmの位置決め精度、6軸加工機は2.7nmの加工精度と1500mmで0.4μmの真直度、直径400mmの非球面レンズは0.11μmの形状精度を実現する。直径0.1mm以下のマイクロレンズから直径1400mmの非球面レンズ、反射ミラー、その他様々な超精密金型の部品加工が可能で電気自動車(EV)/ハイブリッドカー(HEV)、スマートフォン、半導体、電子部品、航空宇宙、医療、工作機械など、幅広いものづくりの現場で同社の工作機械が活躍している。

図1:ナガセインテグレックス代表取締役社長の長瀬幸泰氏
図1:ナガセインテグレックス代表取締役社長の長瀬幸泰氏
同社の70年の歴史を熱く語ってくれた。(出所:コアコンセプト・テクノロジー)
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回転ずし向けの機器開発で苦境をしのぐ

 実は「これまでに何度も“創業”を繰り返してきた」(同社代表取締役社長の長瀬幸泰氏)。同社が実際に創業したのは1950年。70年以上の歴史があるが、事業環境の変化に適応するため、都度ビジネスモデルを転換してきた。そのサイクルはおよそ30年。現在、「第3の創業」に取り掛かっているところだ。

 1950年に創業者である先代の長瀬登氏が部品の旋盤加工の仕事を始め、やがて汎用の工作機械を造るようになったのが第1の創業。高度成長期は順調だったが、オイルショックや円高不況に見舞われ、活路を見いだそうとあらゆる機械造りに手を出した。油圧プレス機やスクリーン印刷機、果ては回転ずし用のコンベヤーやいつでも瞬時にお湯が出る蛇口も開発した。

 「創意工夫」をモットーに工作機械製造の傍ら顧客のニーズに徹底的に寄り添った。先の回転ずし用の蛇口では、ポンプを使わずにお湯を湯飲みに注ぐシステムの特許まで取り、皿洗い機や魚のアラを入れると魚油と魚粉と水に分ける機械も開発した。しかし、会社の認知度を高めるような仕事にはあまりつながらなかった。

 感動と誇りを持てる仕事をするためには、価格優先ではないオリジナルの自社ブランド製品を開発していく必要がある――。創業者の長瀬登氏は痛感した。とはいえ、当時は大手工作機械メーカーが、海外工場で造った機械を日本に逆輸入してコスト競争を繰り広げていた時代。それとまともに勝負しても勝ち目がなかった。ならば世界一の機能・性能の機械を一品物で造り、受注生産で差異化して生き残ろうと決心したのが1980年ごろ。これが第2の創業だ。

 ところが決心はしたものの、事業規模は小さいし、ブランドも無い。そもそも、そんなことができるとは社内の誰も信じてくれない。そこで、一緒に働いてくれる人たち(長瀬氏は社員という言葉を使わない)に少しでもやりがいを感じてもらえるよう、どんな成果に対しても大喜びするようにし、感動を共有し続けた。

 1年たち、2年たち小さな成果が積み重なってくると、徐々に「もしかしたら自分たちは本当に世界一になれるんじゃないかと良い方向に勘違いをする人たちが出てくる。そうしたらしめたもの」と長瀬社長は振り返る。危機を乗り越えるために始めた新規開発が、次第に世界一になるという夢に変わっていった。組織の歯車がかみ合って好循環が生まれると「危機感が夢に変わり、その夢が次はビジョンになるんです」(同氏)。

図2:ナガセの最新超精密研削盤
図2:ナガセの最新超精密研削盤
ナノグラインディングマシン「NSL-200」。位置決め分解能0.1nmを誇る。0.1nmはもはや金属の格子定数のオーダーである(出所:ベッコフオートメーション)
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