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 業界の非常識にあえて挑み、新技術「バランスドクター」をものにしたナガセインテグレックス(岐阜県関市、以下ナガセ)。続けて、0.1μm分解能で全軸油静圧構造の研削盤も開発した。しかし、実現不可能と思われていた技術である上、知名度も低かったため、当初は限られた顧客しか買ってくれなかった。

 「やっぱりエンドユーザーに見せたときに、ナガセの機械よりも欧州製の機械が並んでいた方がかっこいいし仕事が来る」。顧客にこう言われ、現社長の長瀬幸泰氏はブランドの重要性を痛感したという。

 ところが1990年代初めにバブル経済がはじけると、「できる仕事が違う」(長瀬氏)同社の機械を駆使して高精度加工をこなす顧客のところに仕事が集まるようになる。すると、それまでは全体の一部にすぎなかった超精密加工機の売り上げが伸び始め、全社売り上げの大半を占めるまでになった。景況の悪化で実力のある機械しか生き残れなかったのだ。「ナガセにとってバブル後の10年は“失われた10年”ではなかった」(同氏)。その後もITバブルなどの危機を乗り越えるたびに、「方向性や夢は間違っていなかった」と実感していたという。

図1:独自開発した非接触油静圧案内ユニット体験のデモ装置
図1:独自開発した非接触油静圧案内ユニット体験のデモ装置
ベースと重りを合わせると400kgあるが、指一本の力で滑らかに動かせる(写真提供:コアコンセプト・テクノロジー)
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新型コロナは課題を顕在化させるチャンス

 しかし、2008年のリーマン・ショック、続く11年の東日本大震災は、さすがの同社も「きつかった」(長瀬氏)。当時、同社の売り上げは国内向けが9割を超えていたが、リーマン・ショックを機にその顧客が中核となるマザー工場をも含めて海外シフトを加速させ始めたからだ。工作機械の選定も海外工場でする顧客もあった。「まさか日本のマザー工場が海外に出ていくとは想像していなかった」(同氏)。最重要顧客である「きらきらのものづくり企業」(同氏)を取り巻く環境は大きく変わっていた。それを受けて現在の社長である長瀬幸泰氏も決断を迫られた。「第3の創業」である。

 その決意から約10年。IoT(Internet of Things)に人工知能(AI)、ジェネレーティブデザインなど思い付く限りの新しい取り組みや新技術の導入に挑んできた。他社に遅れること40年、海外市場にも進出した。しかし、今は「非常に苦労している」(長瀬氏)のが正直なところ。しかも10年かけてようやく手応えを感じ始めたところに新型コロナウイルス感染症拡大が襲いかかり、顧客の設備投資が急激に縮小したからである。加えて、徐々に拡大した海外顧客への納入、据え付けの停滞という課題も立ちはだかった。

 だが、長瀬氏は感染症だから不可抗力と諦めているわけではない。「潜在的な課題が顕在化するきっかけになった」(同氏)と、あくまで前向き。それを象徴するかのように、会社の入り口に「本気で戦え!!」とのキャッチフレーズが掲げられている。「顧客とともに本気で生産革命に取り組もうとの意気込み」(同氏)の表れだ。

 そこには自社の技術への自信と、今の時代だからこそ日本のものづくりにはナガセの技術が必要なはずだとの思いがある。同社が得意とする超精密加工は、高い生産性と対極とのイメージがあるかもしれない。しかし、実は精密加工技術は生産性向上に直結している。高品質なものづくりにおける非熟練化や省人化、自動化を進めようとすれば、それを支える工作機械の機能・性能を高い水準で維持しなくてはならないからだ。

 それ故、イノベーションが起きる時ほど、同社の工作機械が真価を発揮する。ブラウン管から液晶テレビへ、電球・蛍光灯からLED照明へ、携帯電話機からスマートフォンへ、エンジンからモーターへと世の中の技術トレンドが大きく変化するような時には、たいてい克服すべき加工技術の課題がある。そのときに必要となるのがナガセの工作機械なのだ。