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 「鍛造」と聞いて読者のみなさんが思い出すのは何だろうか。鍛造は、たたくなどして金属に力を加えて強度を高め、目的の形状に成形する技術。代表的な鍛造品としては、日本刀が挙げられる。熱した鋼をハンマーで何度もたたいて鍛えあげる大変手間のかかる工芸品だ。

 日本刀の例からも分かるように、その製法には長い進化の歴史がある。古くは刀剣製造のために、現在ではゴルフクラブや自動車部品が求める高度な要求に応えるために進化してきた。その進化形の1つ「冷間鍛造」用の金型製造を得意とするのが日新精機(埼玉県春日部市)だ。同社社長の中村 稔氏は、「圧倒的なチャレンジ精神」に同社の強さの源泉があると胸を張る。中でも近年積極的に進めているのがデジタル化だ。では、果たしてそれは同社のものづくり・経営にどのように影響しているのか。

図1 日新精機代表取締役社長の中村稔氏
図1 日新精機代表取締役社長の中村稔氏
同社のデジタル化を積極的に進めている中村社長。筆者らを笑顔で出迎えてくれた。(出所:コアコンセプト・テクノロジー)
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鍛造の製法による違い

 読者には釈迦(しゃか)に説法かもしれないが、ここで鍛造についておさらいしておこう。一口に“鍛造”といっても、長い進化の歴史があり幾つもの製法が存在する。その製法を分類する上での軸は大きく2つ。1つは素材への加圧方法の違いだ。ハンマーのような道具でたたいて徐々に形づくる自由鍛造、金型で押し潰すようにして変形させる型鍛造、円筒形の素材をより小径の開口部を持った型に押し込んで心太(ところてん)のように押し出して造る押し出し型鍛造などがある。

 もう1つの軸は温度である。日本刀の鍛錬といえば高温に熱された真っ赤な素材をたたいていく姿を思い浮かべるだろう。このように素材を高温に熱する方法を熱間鍛造という。その温度は素材にもよるが一般に1000℃前後とされる。

 一方、室温・常温で変形させるのが日新精機の得意とする冷間鍛造だ。加熱する「熱間」に対して、常温で製造するため「冷間」と呼ぶ。他にも、熱間と冷間の中間に位置する温間鍛造と亜熱間鍛造、熱間よりさらに高温で加工する半溶融鍛造などがあり、加工品の用途、素材によって使い分けられている。

図2 冷間鍛造品の例
図2 冷間鍛造品の例
常温で加工されるため数種類の金型を使って徐々に変形を加えられる。
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 冷間鍛造の最大のメリットは、室温で加工できる点だ。冷間鍛造の場合、熱間鍛造に必要な素材を数百~1000℃程度に加熱する工程が要らないため、鍛造用のプレス機などに素材(ビレットなど)さえ供給できれば、連続的に生産し続けられる。量産性に優れた製法だ。ただし、硬い金属材料を塑性変形させるため、金型の材料にはさらに硬く加工しにくい超硬合金などを用いる。その加工技術が、金型メーカーの腕の見せどころというわけだ。

図3 超硬合金の金型
図3 超硬合金の金型
超硬合金の加工をいかに高精度に仕上げられるかが、腕の見せどころだ。(出所:コアコンセプト・テクノロジー)
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