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 一般的な知名度こそないが、日本の製造業を支える優れた技術を持つ工場を訪ねる本連載。今回は番外編として、そうした工場の未来を担う人材が、技術や技能を学ぶ愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科を取り上げる。(日経ものづくり)

 日本の製造業の競争力が、熟練技能者の高度な技能や技術に支えられていることに異論を持つ人は少ないだろう。しかし、そうした技術や技能の多くは、現場でたたき上げて身に付ける。その習得には長い時間がかかるため、次世代を担う若者たちの中で技能者を志望する者の数は近年伸び悩んでいる。

 そこで、より実践的な教育によってものづくりの即戦力となる人材を育成しようという新しい試みが始まっている。それが、愛知県が「国家戦略特区制度」の認定を受けて、全国初の公設民営として2017年に設置した愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科だ*1

図1 協働ロボットの実習風景
図1 協働ロボットの実習風景
生徒に1台ずつ最新の小型協働ロボットが使える環境を整えている。企業でも珍しいこうした経験を経て社会人となった若者たちが、製造現場にロボットがいる風景を当たり前にしていくのだろう。(出所:愛知県立愛知総合工科高等学校)
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*1 愛知総合工科高校の前身は東山工業高校と愛知工業高校という2つの工業高校。それぞれ50年、120年の歴史を持つこの2校を合併する形で、同工科高校が設立された。

 ものづくりの技能者の教育機関としては、工業高校や高等専門学校(高専)が知られているが、より徹底した少人数個別教育で、次世代のリーダーとなる技術者・技能者「高度ものづくり人材」を育成するのが同工科高校専攻科の狙い。「工業高校」ではなく「工科高校」という名称には、エンジニアリング(工学)だけではなく、エンジニアリングとサイエンス(科学)をどちらもバランスよく身に付けてほしいとの願いが込められている。実際、本科では大学進学者が増え、卒業生の半分ほどが大学に進んでいる。

プロが実習を教える4コース

 愛知総合工科高校の真骨頂は、本科3年を修了した後に進学する「専攻科」にある*2。カリキュラムは、座学と実習がおよそ半々。それぞれその道の専門家が指導に当たるのが特徴だ。

 座学を教えるのは地元の名城大学を中心とする大学教授たち。教員免許こそ持たないが、みな博士号を持っている。それもあって授業内容は大学のそれとよく似ている。実習で技能を教える教師陣もしかり。トヨタ自動車やデンソー、アイシンなどの工場で生産に従事し、技能五輪のメダリストになったすご腕たちばかりだ。

*2 専攻科は2年のプログラムで、修了すると大学3年に編入できる。一般に窯業や水産など専門性が高いものに限られている場合が多い。工業高校の場合も自動車科として整備の資格が取れるなど、専門職を意識したものが多く、どちらかというと専門学校に近い。専攻科に対し、高校課程を「本科」と呼ぶ。

 つまり、愛知総合工科高校では他の高校にはない各分野のスペシャリストによる授業が受けられる。設備に対する投資にも妥協がない。5000万円は下らない5軸マシニングセンターが使え、「大学はおろか企業でも導入しているところは少ないはず」と専攻科 専門科目統括者の鈴木直樹氏は胸を張る。

 専攻科は次の4コースから成る。産業用ロボットを活用する「生産システム」、組み込み制御や自動運転などのソフトウエア開発を学ぶ「情報システム」、自動車や航空機産業で必要とされる専門人材を輩出する「自動車・航空産業」、そして電力設備や通信設備など、主に重電系を学ぶ「エネルギー産業」である。それぞれ募集人数が10名という少数精鋭のクラスだ。

 コースによって実習内容には違いがあるが、とりわけユニークなのが全コースに共通する「総合実習」と呼ぶ授業。雰囲気は大学の卒業研究といったところで、ソーラーカーを造ろうという学生もいれば、障害児用の電動乗用車やGPSを使った測位システムなどの開発を目指す学生もいる。かと思えば、技能五輪を目指してトヨタ自動車の元技能者からマンツーマンの指導を受ける学生もいる。自らの興味の赴く技術や技能に集中して取り組んでいるのだ。

図2 専攻科 専門科目統括者の鈴木直樹氏(左)と庶務統括者の西村亮氏(右)
図2 専攻科 専門科目統括者の鈴木直樹氏(左)と庶務統括者の西村亮氏(右)
鈴木氏は名古屋工業大学卒業後、豊田自動織機で人事課長、トヨタL&Fで工場長などを務めた。その後、鶴城丘高校や刈谷工業高校の校長を歴任し、刈谷市の副市長を経て現職。西村氏(右)は大学卒業後、民間企業を経て2008年に名城大学入職。経営学修士(MBA)、国家資格キャリアコンサルタントを持つ。(出所:ベッコフオートメーション)
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