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 「頑張っている若者たちをとにかく見てほしい」――。こう熱を込めて語るのは、ロボット技術者の人材育成に取り組む、次世代ロボットエンジニア支援機構(通称Scramble)代表理事の川節拓実氏だ。

 Scrambleは、ロボットコンテスト(ロボコン)に出場するチームを育てたり、外部のロボコン参加チームを資金面で支援したり、若者向けにロボット教室を開催したりといった活動を展開。社会人向けに、工場の自動化に関する勉強会「FA設備技術勉強会」も開催している。自身も学生時代はロボコンに熱中する”ロボコニスト”だった川節氏が中心となって立ち上げた。以前は任意団体として活動していたが、2020年に一般社団法人として法人登録した。現在、米Google(グーグル)や村田製作所などの大手からベンチャー・中小企業まで、幅広い分野の20社ほどの企業および個人がスポンサーとなって資金提供している。

図1 次世代ロボットエンジニア支援機構(Scramble)の代表理事の川節拓実氏
図1 次世代ロボットエンジニア支援機構(Scramble)の代表理事の川節拓実氏
大阪大学大学院 基礎工学研究科 助教で、ロボットコンテストに情熱を注いできた生粋の“ロボコニスト”。NHKや全国高等専門学校連合会らが主催する高専ロボコン(アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)や、ロボットがサッカー競技を競うロボカップでの豊富な戦歴を持つ。(出所:ベッコフオートメーション)
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Scrambleの紹介動画(Youtube)

 Scrambleの最大の特徴は、構成メンバーの顔ぶれの幅広さだ。中学生から社会人まで100人ほどが、ロボコンチームの一員や運営メンバーとして活動。各人がロボットに関わるものづくりに情熱を注いでいる。

 既にめざましい成果も挙げている。例えば、高校生以下のロボコン大会としては米国随一の「First Robotics Competition」(FRC)の21年の大会では、Scrambleの重点強化チームが「Rookie Game Changer Award」(新人チームの傑出した成果を表彰する賞)を受賞した*1。ドローン大手の中国DJI社が主催する「RoboMaster Robotics Competition 2020」では、傑出した指導力でチームを導き、優れた成果を残したキャプテンに贈られる「Outstanding Captain Award」を、10代の若いメンバーが日本人として初めて受賞した*2

 どうしたら世界で戦える若手のロボット技術者を生み出せるのか。その秘訣を探るべく筆者は、Scrambleが活動拠点としている京都府の「けいはんなロボット技術センター」を訪れた。

*1 日本でFRCを展開しているNPO法人である青少年科学技術振会によるFRC紹介のサイト *2 RoboMaster日本委員会のサイト

社会人の技術と知見を子どもたちに伝受

 Scrambleは、「日本のものづくりを担う次世代のエンジニアとなる子どもたちを、大人、企業また社会が協調し一体となって支援、育成し界隈(かいわい)をさらに活性化させる」との理念を掲げている。ロボコン活動を通じて、社会人技術者が自分たちの持つ技術や知見を子どもたちに提供し、それによって次代の技術者を育てることを事業の柱としている。

 「大人と学生たちがよい関係を築ける環境をつくりたかった」。川節代表理事は、Scrambleを大人から子どもまで幅広い年代が集まる組織にした意義をこう強調する。日本の学生ロボットコンテストは、卒業生があまり関与しないのが不文律。確かに実力を養うにはある程度学生たちが自らの力で課題に挑む必要がある。しかし、本当に難しい技術的な課題に挑んだり、圧倒的な資金力を誇る海外チームに対抗したりという場面では、豊富な技術と知見を持つ身近な大人からアドバイスを得られたほうが、学生たちも成長できる。そこで川節氏は、もともとはロボコン好きの社会人が集まるチームだったScrambleを、社会人から小中学生までが集う「次世代ロボットエンジニア支援機構」へと進化させたのだ。

図2 Scrambleのロボコンチーム
図2 Scrambleのロボコンチーム
社会人のメンバーも多く、ものづくりのレベルも高い。チームメンバーの1人は「オムニホイールとギアを一体化して射出成形する専用の金型を製作した。数が多いのでコストを下げられるし、射出成形なら強度を高められる」と教えてくれた。さすが技術者の仕事だ。(出所:ベッコフオートメーション)
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 実際、取材時にロボットのデモンストレーションを披露してくれた際も、社会人メンバーと中高生たちが和気あいあいと準備をしていた。「小学生や中学生もメンバーに入ってきて、30代の社会人技術者たちと日常的に話すようになりました。子どもたちにとっては知りたいことはなんでもすぐに教えてもらえる環境は魅力的だと思います。しかもそれが実際に社会で活躍しているロールモデルとなる技術者からであればなおさらです」(川節氏)。社会人メンバーも一生懸命な子どもたちを応援したいという親心を持つ人たちばかり。「真っすぐで純粋な若者が頑張っている姿を見て、自分も頑張らなくちゃという気持ちになっていると思います。ギブアンドテイクの良い関係です」(同氏)。