「工業用の付加製造装置を自社で開発しなくては」
そして、2017年12月に3社目として起業したのが、大型3Dプリンターという「もの」を開発するExtraBold(東京・豊島)というわけだ。狙いは自動車部品や家具、建材などへの利用を想定した、大型で高速造形が可能な3Dプリンターの開発にあった。当初は、国内3Dプリンターベンチャーとプロトタイプを共同開発しようとしていた。
しかし、フレームの強度や熱収縮によるそりなど、数多くの問題に直面。量産機としてのレベルには至らなかった。開発方針の相違もあって共同開発を解消。原氏は「今までの延長線上の3Dプリンターではなく、工業用として使える『付加製造装置』を自社で開発しなければ」との考えに至ったという。
その後、ExtraBoldは幾つかのビジネスピッチコンテストで受賞を重ね、2021年4月にはベンチャーキャピタル(VC)のリアルテックファンドなどから3億6000万円の調達を実現。そのころ原氏は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、人がリアルに集まる事業モデルは難しくなると判断し、デジタルアルティザンを辞め、目に見える成果物としての大型3Dプリンター開発へ注力することにした。資金調達後はその活動を一気に加速させ、2021年9月に発表したのが前回の冒頭で紹介した付加製造装置の量産機「EXF-12」だ。
将来はアームロボットや一般の工作機械にも取り付けられる3Dプリントヘッドを開発し、日本の狭い工場でも使えるようにしたいと原氏は考えている。「限られた工場のスペースに大きな3Dプリンターを新設するのは難しい。しかも、工作機械を担当しているエンジニアにとって、愛着ある機械の代わりに3Dプリンターを導入するのは抵抗が大きいだろう。しかし、使い慣れている工作機械の主軸に付加製造のプリントヘッドを取り付けてパワーアップできるなら、使わない理由はないはず」とにらんでいる。
ExtraBoldでは、現在の樹脂用のプリントヘッドに加えて、食品用や金属用などさまざまなヘッドの製品化も視野に入れている。最終的な目標は、付加製造装置のプリントヘッドメーカーになること。従って、原氏が狙っているのは、3Dプリンター市場ではなく、工作機械市場だ。日本の工作機械の性能で日本の技術・品質で製品化できればチャンスがあると確信しているようだ。
原氏は「サンダーバード*4世代なので」と前置きして、ぜひやりたいと考えている夢についても教えてくれた。それは、可搬性のある3Dプリンターコンテナや切削加工コンテナ、塗装ロボットコンテナなどをつくるというもの。それらを集めるとマイクロファクトリーになるという構想だ。土地に縛られず、生産するものに応じて柔軟な機能を持った生産ラインの構築を描いている。