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 「昔は『こんなに奇麗なのはいらん(もっと安価にしてほしい)』とよく言われていたようですが、この10年ほどで顧客からの要求品質が変わってきました。本当に精度を求める時代がついにやってきたか、という心境です」――。こう語るのは、今回取材に訪れたクリスタル光学(滋賀県大津市)で代表取締役専務を努める桐野宙治(きりのおきはる)氏だ。

 同社は、超精密研磨をはじめ切削、研削などの加工をなりわいとしている。加工対象となる材料は、光学結晶材を中心に金属や非金属、セラミックスなどさまざま。主な製品としては、半導体やディスプレー、電気自動車(EV)向けバッテリーの製造装置の精密部品などがある。天体望遠鏡などにも採用される同社ならではの超精密加工が強みだ。

研磨から超精密加工へ

 琵琶湖湖畔に位置するクリスタル光学の創業は1985年。創業者の桐野茂氏がガレージで始めた有限会社が始まりだ。創業当時は、「昼間に仕事を取ってきて夜に加工するため、1週間で8時間しか寝ていなかったという話を聞いた」と桐野専務は振り返る。

 創業者の桐野茂氏は研磨職人で、祖業も研磨加工だったが、時代の流れに従い研削や切削など研磨以外の超精密加工に必要な要素技術を取り込んできた。「職人は自分が最後の1人でよい。皆は技術者になれ」というのが創業者の言葉だ。

 そんな同社もいまや従業員約200人、開発拠点でもある本社工場に主力生産拠点の大津工場、大型部品を加工できる京都工場、そして半導体関係の顧客が多い熊本工場と、創業40年弱で4つの工場を構えるまでに成長した。特に最近は、半導体需要の急増によって半導体製造装置の部品はいくら生産しても足りない状況という

図 クリスタル光学代表取締役専務の桐野宙治氏
図 クリスタル光学代表取締役専務の桐野宙治氏
創業者の桐野茂氏と二人三脚で事業を支えてきた。最近は国内外の大学など研究機関と連携し、新規事業の開発に注力している。(写真:つぎて)
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* シリコンサイクルに翻弄されないように多角化を進めてきたが、直近は半導体関係の売上比率が6割を超えている。

 設備投資という面では、加工機はもちろん、検査に使う測定器にも力を入れている。職人は五感で技能を実践し伝えていくが、技術者は数字で語る必要があるからだ。この話を聞いて筆者は、以前に本連載で訪れたナガセインテグレックス(岐阜県関市)長瀬社長(代表取締役社長の長瀬幸泰氏)の「測定ができなければ加工はできない」という言葉を思い出した。それを桐野氏に伝えると「長瀬社長とは同じ価値観で超精密加工に取り組んでいます。当社にある33台の研削盤のうち17台はナガセ製ですよ」とうれしそうに教えてくれた。

図 ナガセインテグレックスの研削盤
図 ナガセインテグレックスの研削盤
新機種は大抵真っ先に導入するという。(写真:つぎて)
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