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インドの乗用車市場で5割のシェアを持つマルチ・スズキ(Maruti Suzuki India)に危機が迫る。市況の冷え込みに加え、次の主戦場が上級車にシフト。小型車を得意とする同社に逆風が吹く。上級車で攻勢をかける韓国・中国勢の躍進を許せば、インド最大手といえども命取りになりかねない。危機を乗り越え、シェア5割の牙城を死守できるのか、同社の挑戦が始まった。

 「今一番怖いのは慢心すること。会社が大きくなったと勘違いすることだ」。スズキのインド子会社マルチ・スズキ(Maruti Suzuki India)の技術者は危機感を募らせる。

 スズキにとってインドは生命線だ。2018年度(2018年4月~2019年3月)の連結売上高3兆8715億円のうち、34%をインドが占める。スズキの世界生産台数339万4000台のうち55%、販売台数332万7000台の53%がインドである。

 インド市場でマルチ・スズキは圧倒的な強さを誇る(図1)。1983年の生産開始以来、インドの乗用車市場でほぼ一貫して5割のシェアを維持してきた。2018年度の同シェアは51.2%と、2位で同16.1%の韓国・現代自動車(Hyundai Motor)を大きく引き離す。

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図1 インドの乗用車市場で5割のシェアを持つマルチ・スズキ
(a)2018年度のインド乗用車市場シェア。(b)マルチ・スズキのシェア推移。長年にわたりシェア5割を維持してきた。(出所:インド自動車工業会、スズキ)

 インドは近い将来、中国、米国に次ぐ世界第3位の新車市場に成長する見通しだ。人口が約13億人と中国に匹敵する規模でありながら、乗用車の普及率は人口1000人当たり30台未満と、中国の1/4~1/5、先進国の1/10~1/20と低い。インドでは労働人口の増加率が全人口の増加率よりも高くなる「人口ボーナス期」が2040~2060年まで続く見通しで、長期間の経済成長が見込める。自動車メーカーにとってはバラ色の市場である。