新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大してイベントや会議などの中止が相次いでいる。日本でも都市封鎖が現実味を増し、企業はテレワークを推進。人が直接集まることを極力避け始めた。こうした中、一躍注目されているのが仮想現実(VR)活用だ。VR空間で人が集まり、交流を図る。サービス提供者は用途ごとに特徴を打ち出し、ユーザーの使い勝手を高めている。後編では、企業の会議などに使えるサービスとVRの課題について取り上げる。
法人向けに特化したVR空間
会議や研修などの法人利用(BtoB)を中心に見据えたサービス「NEUTRANS BIZ」を手掛けるのがSynamon(東京・品川)だ。「2月末から3月にかけて、問い合わせが約2倍に増加した」と同社VP of Business Developmentの武井勇樹氏は語る。
同サービスは、最大10人までが3Dアバターで参加可能なVR空間を提供する。会議や研修に加えて、ショールームや展示会など様々な用途で共同作業に利用できるのが特徴だ。
地道に改良を積み重ねたUI/UX
「VRならではの魅力は、体験と空間の共有ができること」(武井氏)。そのため、体験の質を高めることに重きを置いた。最も力を入れたのは、使いやすさにこだわったユーザーインターフェースとユーザー体験(UI/UX)の改良である。
NEUTRANS BIZは多機能であることが特徴の1つだ(図1)。例えば、3Dモデルの表示や360度映像の再生、VR内で付箋やホワイトボードなどに図や文字を書けるペイント機能などがある。そのため、VR空間内でブレーンストーミングも実施できる(図2)。実際、KDDIはプロトタイピングやアイデア創出などのビジネス開発拠点である「KDDI DIGITAL GATE」の施設内をNEUTRANS BIZ上に再現し、遠隔地の利用者が使用できるように取り組んでいる。
一方で、機能が増えるほど操作が複雑になって使いづらくなる。それを防ぐために、Synamon は2016年の創業以降、UI/UXの改善に取り組み続けている。「試行錯誤で地道に改良を続けてきた」(武井氏)。これにより、3Dアバターの姿で顔の動きや身ぶり手ぶりを再現し、話している人の方向から声が聞こえる立体音響を使って、より臨場感のあるコミュニケーションができる。
操作方法は、ヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着した参加者が分かりやすいように工夫し、現実の体の動きにアバターのそれが自然に追従するようにした。加えて、使用するコントローラーのボタンを減らし、操作を必要最小限に抑えることで利用時のハードルが高くならないように設計している。