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 このようにMRAMやMTJが実用化されれば、過去の3回の冷却期を大きく超える省エネルギー化が実現しそうだ。ただ、MRAMは大きな注目を集める一方で、これまでなかなか市場でブレークしない期間が長かった。本当に実用化できるのか疑問が残る。

 結論から言えば、今回は本物で近い将来市場の急拡大がほぼ確実だ。米Global-Foundriesや韓国Samsung Electronics、さらには台湾TSMC、Intelなどの大手ファウンドリーや半導体メーカーが軒並み、混載用MRAM(eMRAM)やSTT-MRAMの個別部品を300mmウエハーで量産済み、または量産準備が整ったとしているからだ(表2)。

表2 STT-MRAMを量産、または量産間近の企業と技術の比較
表2 STT-MRAMを量産、または量産間近の企業と技術の比較
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 既にGlobalFoundriesが製造受託した米Everspin Technologiesの40nm FD-SOIプロセスに基づく256Mビット品がIBMや米SMART Modular TechnologiesのSSDのバッファーとして採用されている(図9)。Everspinは営業損益が赤字ながら、2019年末に28nm世代プロセスに基づくSTT-MRAMの1Gビット品を出荷するなど、MRAMの技術革新と市場拡大をけん引している。

FD-SOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)=Si基板の表面から数nmの深さに酸化膜(SiO2)層を埋め込んだ基板。
図9 SSDのバッファーでDRAMを代替
図9 SSDのバッファーでDRAMを代替
EverspinのSTT-MRAM製品を実装したストレージ製品の例(a)。IBMは大容量SSD製品でこれまでバッファーとして使っていたDRAMの一部やその電源であるスーパーキャパシターに替えて1Gバイト分のSTT-MRAMを採用。SMART Modular Technologiesもバッファー用カードに採用した。(a)で用いられているのはEverspinの256Mビット品だが、同社は2019年末に1Gビット品を出荷した(b)。
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 Samsungは2019年3月にファウンドリーとして28nm FD-SOIプロセスに基づくeMRAMの量産を始めたと発表した。委託元は明かしていないが、1社は英Armだ注2)

注2)Samsungの製造委託元としては、噂ベースではNXP Semiconductorsの名前も挙がっている。

 Armは2019年5月、これまで40nm世代のプロセスによるeFlashを使っていたArm Cortex-M33ベースのIoT端末向けテストチップに、今後はMRAMを用いることを発表した。その製造委託先がSamsungである。このテストチップは「Musca-S1」として、その評価キットとともに2019年第3四半期からサンプル出荷され、同第4四半期には世界に提供していく計画だという(図10)。

図10 ArmはIoT端末に採用
図10 ArmはIoT端末に採用
ArmがSamsungに製造委託して開発したIoT端末向けテストチップ「Musca-S1」の評価ボード。右上にMRAMの文字がある。CPUコアはArm Cortex-M33。(写真:Arm)
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 TSMCも既に中国Huawei Technologiesから製造委託を受けたという噂もある。少なくともHuaweiが2020年春、日本でMRAM開発の技術者募集を始めたのは事実だ。

 半導体製造装置メーカー大手もSTT-MRAM関連技術の争奪戦を始めた。東京エレクトロン(TEL)は2017年10月、米国のMRAM技術のベンチャー企業Spin Transfer Technologies(現Spin Memory)とSTT-MRAMでSRAMやDRAMの代替を目指した開発を進める方向で協業した。さらに米Applied Materials(AMAT)が2018年11月、Armと共同でSpin Memoryに出資。それと同時にAMATはSpin MemoryとeMRAMの開発と製造で包括的な提携を締結した。ArmはSRAM代替技術の知的財産(IP)の提供をSpin Memoryから受けるライセンス契約を結んだ。