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オンライン販売の覇者、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)は、スーパーマーケットの企業を買収し、自らも店舗を運営するなど、リアルの世界への進出を図っている。迎え撃つのがウォルマートに代表される既存の企業だ。競争のために、店舗の無人化を進めてきたが、コロナ禍による非接触化推進の流れを受け、これが加速している。

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、AIやロボティクスをフル活用し、人同士の接触を極少化して、感染を予防する未来の小売店の姿が米国で見えてきた。店舗はオンラインであらかじめ頼んでおいた商品を、人と接することなく受け取る場所に変貌しつつある。

 その急先鋒が、米小売り最大手の米ウォルマート(Walmart)だ。ウォルマートはここ2~3年、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com、以下アマゾン)への対抗策としてネットで商品を注文してこれを店舗で受け取る、いわゆる「BOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)」と呼ばれる取り組みを強化してきた(図1(a))。宅配を強化すれば良さそうだが、米国は日本に比べると、宅配事情が悪く、生鮮食料品を宅配してもらうのは現実的ではない。

(a)ピックアップゾーンを持つ店舗
(a)ピックアップゾーンを持つ店舗
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(b)ピックアップタワー
(b)ピックアップタワー
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(c)トランクに荷物を載せる従業員
(c)トランクに荷物を載せる従業員
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(d)ピックアップゾーンの通知画面
(d)ピックアップゾーンの通知画面
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図1 顧客の非接触を徹底するウォルマート
顧客の利便性向上で進めてきた施策が、新型コロナ対策にも役に立った。(撮影:シリコンバレー支局)

 ウォルマートの一部店舗では、「ピックアップタワー」と呼ぶ装置を店舗に配置し、人手を介さずに商品を受け取れる仕組みを用意している(図1(b))。タワーのない店舗では、ユーザーはカウンターで店舗スタッフから手渡しで商品を受け取れる。

 もともと人気だったBOPISサービスは、コロナ禍をきっかけに一層需要が高まった。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、買い物にさらに手間がかかるようになったからである。ソーシャルディスタンスを確保するために店内に入れる人数は制限され、店舗に入るまで20~30分もかかる。店舗が広大なので、そこから買い物をして会計するまで、さらに30分から1時間はかかる。買い物時間の短縮に加え、BOPISは、人と接する機会を極限まで減らせる。

 感染拡大防止をいっそう徹底するため、ウォルマートは完全に非接触でピックアップできる手段も用意した。これまで顧客自らが店舗内まで行き、商品をピックアップしていたが、現在は、店舗の中に入る必要はない。店舗の駐車場に止めたクルマのトランクに、従業員が直接運んでくれるサービスを提供中だ(図1(c))。

 アプリで商品を選択して購入した後、予約した日時にクルマでウォルマートの店舗に向かい、ピックアップゾーンにクルマを止めて到着したことをアプリで知らせる。その際に、クルマを止めた場所の番号、クルマの色を選択する(図1(d))。5分もしないうちに従業員が出てきて、トランクの中に商品を入れてくれる。受け取りのサインが必要だが、客の承諾を得て従業員が代行してくれる。一連の作業はわずか10分程度で終わる。

 こうしたBOPISの施策が原動力となり、コロナ禍によって多くの大手企業が業績悪化に苦しむ中、ウォルマートは好業績を上げた。例えば、2020年2~4月期の売上高は前年同期比約8.6%増の1346億2200万米ドル(約14兆4000億円、1米ドル=107円換算)、純利益が同3.9%増の39億9000万米ドル(約4270億円、同)だった。2月から4月という、コロナ禍で特に急増した需要を滞りなくさばけた結果だといえる。

 ウォルマートは顧客には見えない部分の非接触化も加速させている。その中心にあるのは、AIやロボティクスを活用した店舗運営の自動化だ。例えば、店舗倉庫から荷物を搬送する作業の自動化に注力している。それが「アルファボット(Alphabot)」と呼ぶシステムである(図2)。2019年から一部の店舗に試験的に導入。2020年1月、本格的な運用を始めると発表した。

(a)AlphabotのAGVの外観
(a)AlphabotのAGVの外観
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(b)立体倉庫
(b)立体倉庫
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図2 バックヤードもロボット化
Alphabotでは3次元的に構成したレールの上をAGV(自動搬送装置)が走行し、商品が入ったカゴを従業員がいる場所まで運ぶ。(写真:(a)はウォルマート、(b)はアラートイノベーション)

 Alphabotでは、商品を詰めたボックスを運ぶ小型ロボットが、倉庫内を立体的に移動する。XYZ方向にレールが敷かれており、そのレールをロボットが移動する。従業員が倉庫内のピックアップ場所にある端末を操作して所望する商品を選択すると、ロボットがその商品が入ったボックスを倉庫の棚から搬送し、従業員の前まで運んでくる。

 一般的な自動倉庫の場合、大型の搬送ロボットが複数のボックスをまとめて運ぶ。これに対してAlphabotでは、ボックス単位で、かつ小刻みに商品を取り出せる。そのため、店舗併設の倉庫での利用に向く。

 加えて、故障時の対応が容易だ。大型の搬送ロボットの場合、復旧まで時間がかかることが多い。一方、Alphabotであれば、小型ロボットが故障した際には、機能を停止させて、停止場所を迂回するように他の小型ロボットを移動させられるので、搬送作業を中断させないという。