ついにLiDAR内部に到達
目的のLiDARモジュールは、背面カメラ部の2つのカメラと一体になって金属ケースに収められていた。この金属ケースを外すと、樹脂製のケースに覆われたLiDARモジュールが現われた。
LiDARモジュールの外側には、レンズと思われる円形の光学部品が観察される(図6(a))。オレンジ色に見える右側がレーザーの発光部、白く見える左側が反射光を受け取る受光部である。
モジュール全体は樹脂製のカバーに覆われ、開ける場所がなかったため、ダイヤモンドカッターで外部を切断して、上部と下部を切り離した(図6(b))。
レンズ部の下からは、発光素子の「VCSEL(垂直共振器面発光レーザー)」のレーザーアレーと、受光素子のCMOSイメージセンサーが現われた。VCSELの光源の4つがひとかたまりになって電極につながり、それが16列並んでいた。つまり、合計64点あった(図6(c))。フランスの技術系コンサルティング会社であるSystem Plus Consulting(システムプラスコンサルティング)の分析によると、このVCSELは米Lumentum(ルメンタム)製という。
光の往復時間を直接計測
以上の構造からiPad Proの測距は、以下の仕組みで実現されているとみられる。まず、測距したい対象物に向けて、VCSELから赤外線レーザーを送出する。光は対象物に当たって反射し、反射光をCMOSイメージセンサーで感知する。光の往復に要した時間ToFを計測し、これに光速をかけ、2で割ることで、対象物までの距離を算出する。
ToFの計測手法には2種類ある。第1が、パルス信号を送出した時刻と返ってきた時刻を計測し、その差分からToFを求めるdToF方式。第2が、周期信号の位相差から間接的に求める「インダイレクト(iToF)方式」である(図7)。
dToF方式は、画素サイズの小型化が難しく、VGAのような高解像度の撮影がしにくい。しかし、外光に強く屋外での長距離測定に向いている。iToF方式は、位相差が1周期を超えるとToFの計算ができなくなるので、長距離を測りづらい。ただし、解像度が高いことや、デジタル回路を小型化できるなどの長所もある。
Appleが自ら明言しているように、2020年版のiPad ProのLiDARスキャナーはdToF方式である。屋外での利用に強いという点を評価したとみられる。
System Plus Consultingの分析によると、LiDARのCMOSイメージセンサーはソニー製で、dToF方式固有の「SPAD(Single Photon Avalanche Diode)」という画素構成を採用しているという(図8(a))。SPADは、センサー面に光子が1個到来すると、シリコンフォトダイオードが雪崩のように電子を発生させ、CMOSトランジスタが電気パルス信号を作る。dToF方式において、光の到来時刻を測る常とう手段となっている。
同社によると、今回のイメージセンサーのピクセルの直径は10µm、画素数は約3万画素だという。